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ついに金融政策が「異次元」から「正常化」へ


2024年3月19日、日本銀行の政策委員会・金融政策決定会合において、これまでの金融政策の枠組みの見直しが決定されました。当初、政策転換は4月ごろではないかと予想されていましたが、3月に前倒しされたかたちです。

今回、金融政策の大幅な見直しが決まったのは、以下の2つの点が判断されるに至ったことが大きな理由のようです。
(1)インフレターゲット(年2%の物価安定の目標)が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況になった。
(2)長短金利操作(YCC=イールド・カーブ・コントロール)付き量的・質的金融緩和の枠組みやマイナス金利政策は、その役割を果たした。

確かに、日銀が常に注視している消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は、2年連続で前年比+2%を超え、今後の物価上昇率も2%を超えることが予想されています。2年連続で2%を超える物価上昇を記録したのは1991、1992年以来。つまり、平成バブル期以来の出来事と言ってもよいでしょう。

そして、今回の決断に大きく影響を及ぼしたのが、3月15日に連合が公表した2024年春闘1次集計で、賃上げ率の平均が5.28%と、33年ぶりの5%超えを記録したことだったようです。植田日銀総裁も、記者会見でそのことを認めていました。

今回行われた大きな変更内容としては、マイナス金利の解除、YCC付き量的・質的金融緩和※1の終了、そして、約11年ぶりに金融市場調節の操作対象を無担保コールレート(オーバーナイト物)に戻す、といった点が挙げられます。

日銀は過去、1990年代前半までは、公定歩合(=公に定めた金利)を操作していました。そして、1990年代後半以降は操作目標を「無担保コールレート(オーバーナイト物)」という短期金利に変更し、2013年4月の「マネタリーベース」という資金量への変更まで継続していました。

ちなみに、無担保コールレート(オーバーナイト物)とは、金融機関同士が無担保でお金を貸し借りする際に使われる1日満期という超短期の金利のことで、無担保コール翌日物金利とも呼ばれます。また、マネタリーベースとは、日銀が世の中に流通させているお金の総量のことを指し、「日本銀行券発行高+貨幣流通高+日銀当座預金」という計算式で算出されます。

さて、今回11年ぶりに復活した操作目標「無担保コールレート(オーバーナイト物)」ですが、具体的な目標数値としては、「0~0.1%程度で推移するよう促す」ということでした。依然として物価上昇率よりも低い金利水準に抑えようとする姿勢ですので、そういう意味では「異次元的金融緩和」から「正常な金融緩和」に少し変更したという程度だと認識するのがベターでしょう。

さらに、長期国債の買入れについては、「これまでと概ね同程度の金額で長期国債の買入れを継続する。長期金利が急激に上昇する場合には、毎月の買入れ予定額にかかわらず、機動的に、買入れ額の増額や指値オペ、共通担保資金供給オペなどを実施する。」とされましたので、これまでどおり、月間6兆円程度の規模で長期国債を買い続ける方針のようです。

つまり、これまでのYCCのように長短金利を全体的に操作することはしないものの、長期金利が急上昇するような事態が起きたら機動的に対応し、金利上昇を抑えるような操作をしていくというわけです。

今回の決定について、メディアでは「17年ぶりの利上げ」などと大きく報じられましたが、その内容としては依然として金融緩和策は続ける、金融引締策に転換したわけではない、という認識でよいかと思います。

実際に、日経平均株価は大きくは動かず、そして、為替レートは円安が進みました。おそらく、株式市場の参加者からすると、今回の決定は織り込み済みで、予想の範囲内だったということでしょう。また、為替が円安に進んだのは、日銀が本格的な利上げに政策転換するのはまだ当分先だと判断した投資家が多かったからだと思われます。

とりあえず、今回の政策変更は、市場に大きなショックを与えることなく、無難に乗り切ったように見えます。しかし、物価の上昇、株価の上昇、賃金の上昇など、明るい話題が豊富になってきている現状を日銀の側から見ると、景気を過熱させないようにしながら、バブル崩壊のような事態を引き起こさないようにしなければならない、という絶妙な舵取りが求められる局面に来ていると思います。引き続き、日銀の動向には要注目でしょう。

※1.日銀が2016年9月の金融政策決定会合で導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の政策枠組みの重要な要素で、従来からの短期金利のマイナス金利適用に加え、10年物国債金利が0%程度で推移するよう日銀が国債を買い入れ、長短金利全体をコントロールしていくことを指す。通常の量的緩和政策では資産の買い入れ額を決定するが、YCCでは特定期間の利回りをターゲットに設定するため、金利水準を安定させることと、低金利環境を維持して経済活動を刺激するといったメリットがある。 また一定の金利水準を維持することで、経済に対する政策効果が持続する可能性もあるとされる。

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