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世帯構成の多様化と保険ニーズの変化


◆世帯構成の多様化とその影響
日本の世帯構成は目まぐるしく変化しており、直近の国勢調査(※1)によると「単独世帯」が全世帯の約38%を占めていることが明らかになっています。かつての日本の標準世帯であった「夫婦と子供から成る世帯」が今や全世帯の25%まで減少し、「夫婦のみの世帯」が20%、「一人親と子供から成る世帯」が9%、「その他の世帯」が8%を占めるなど、従来の「家族」のイメージを大きく覆す結果となっています。

◆保険市場への影響
これらの変化は保険市場にも大きな影響を与えています。死亡保障をメインにテレビCMをしているネット保険もありますが、現在の標準世帯である「単独世帯」はその必要性を感じていません。また、専業主婦世帯も減少しており、「夫婦のみの世帯」のおよそ3分の2(※2)(全世帯の13%程度)が共働き世帯です。両者を合わせた51%程度は死亡保障を必要としていないのです。

◆「単独世帯」は長期療養と老親介護
むしろ、「単独世帯」は療養や障害で長期間働けなくなった場合の所得補償に必要性を感じています。また、中高齢になってくると老親介護に苦しむ同僚や知人の様子が視界に入り、自分事として意識するようになります。老親介護が発生すると、介護を分担したくても配偶者や子がなく、ひとりで背負うこととなり、仕事との両立が難しくなります。一般的に所得補償保険は自身の疾病や障害によって働けなくなった場合に給付が受けられる保障ですが、老親介護による休業補償を受けられる保険が2017年に登場しています(※3)。

一方、長期間働けなくなる最大の理由は「鬱病を含む気分障害」ですが、鬱病でも制限なく給付を受けられる所得補償保険は少なく、こくみん共済 coop の休業保障特約(※4)や太陽生命の就業不能保険など限定的です。

◆「一人親と子供から成る世帯」は死亡保障と所得補償
具体的な数字に目を向けると、「一人親と子供から成る世帯」が全世帯の約9%を占める現状は、子を持つ世帯の4分の1が一人親世帯であることを意味します。36人学級であれば、1クラスに6人のひとり親世帯がいる状況で、クラス内で複数人の姓が変わるケースも散見されます。この世帯は死亡保障に対するニーズが高く、かつ、長期療養と介護などの保険ニーズの高まりがあります。親が亡くなったり病気になったりした場合、子どもの将来を守るための保険への関心が高まっています。そのため、死亡保障、障害保障、がん保障、鬱病等に対応できる所得補償などをきめ細やかにサポートされれば望ましいのですが、保険会社や共済団体のパンフレットやWEBページではこの世帯に向けた情報発信はなかなか見当たりません。

◆言葉遣いへの反発
多様化の急速な進展により弊所のセミナーの難易度が高くなってきました。セミナーのアンケートからは、「子ども」「配偶者」「家族」「ファミリー」といった従来の家族像に関連する言葉への反発が明らかになっています。社会の変化とともに、多様な世帯構成を持つ人々が増え、従来の家族像に当てはまらない人々がその言葉を受け入れがたいと感じている実態があるからです。

このような反発は、保険・共済業界にとっても重要なシグナルとなります。保険商品・共済制度のWEBサイトやパンフレットには「子ども」「配偶者」「家族」「ファミリー」などのキーワードが並びますが、顧客の世帯構成や価値観を十分に理解し、適切な言葉遣いを心がけることが求められますが、これらに迅速に対応できている保険会社・共済団体は多くありません。

「ライフステージ」への反感
さらに、「ライフステージ」という言葉に対しても反感を持たれやすいことがセミナーアンケートで指摘されています。ライフステージは、独身、結婚、子の誕生・成長・独立を経て、夫婦の生活に戻るモデルがほとんどです。

「単独世帯」の方からは「自分には次のステージがないのか」という疑問や不安を覚えられ、「一人親と子供から成る世帯」からは「離婚するとステージオフになるのか」という辛辣な見方がされるのです。このような感情は、保険・共済業界が顧客のライフスタイルや心情に寄り添ったアプローチを取る必要性を示しています。「ライフステージ」という言葉は特にFP業界で多用されますが、危険なキーワードとして認知されるべきフェーズに入っているのです。

◆多様化に対応が追い付いていない
このような社会の変化への対応として、保険・共済業界は更に柔軟な商品・制度開発を進める必要があります。従来の家族モデルに基づいた保険商品だけでなく、「単独世帯」や「一人親と子どもから成る世帯」など、多様な世帯構成に合わせた保険ニーズに応える新しい保険商品の提供が求められています。今後の保険・共済業界にとって、個々人のライフスタイルの変化に適応し、それぞれのニーズに合致した保険プランの開発とサポート体制が、さらなる成長の鍵を握っているといえるでしょう。

※1令和2年国勢調査人口等基本集計結果
※22002年以降は「労働力調査(詳細集計)」をもとに厚生労働省労働政策担当参事官室が算出
※3三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損保の企業向け団体総合生活補償保険の特約として登場した
※4団体生命共済の特約

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