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執筆者プロフィール
- ファイナンシャル・ジャーナリスト
- LIFE MAP,LLC代表
- 2022.09.29
- 投資
長期の積み立て投資なら株式中心でもよい!?
つみたてNISAや確定拠出年金(企業型DCやiDeCo=個人型確定拠出年金)の口座などを通じて、投資信託の積み立てを行う人が増えてきています。そこで迷うのがどんな資産配分にしたらよいか、さらにどういう商品を積み立てていけばよいか、ということ。例えば、株式に投資する投資信託を積み立てていこうか、投資信託や債券などを組みわせたバランス型の投資信託にしようか、といったことです。
その際、皆さんは、漠然と、株式の比率が高い(=リスクが高い)ポートフォリオで積み立て投資をしていくほうが、株式の比率が低い(=リスクの低い)ポートフォリオで積み立て投資を行うよりも損失額も大きくなる可能性が高いと思っていませんか。
ところが、20年以上の積み立て投資においては真逆の結果になるという検証結果もでてきています(*1)。関心がある方は最後に記した論文をお読みいただきたいのですが、一定の条件のもと、短期金融資産、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式を組み合わせてバランス型ポートフォリオをつくり(*2)、その上で、期待リターンと推計リスクの異なるモデルポートフォリオ(MP)を7つ用意。長期の時間軸で積み立て投資を時間軸の観点で分析した結果です。
MP0(ベンチマーク):期待リターン3.3%、推計リスク9%(株式比率51.4%)
MP1:期待リターン1.0%、想定リスク3.7%(株式比率20.3%)
MP2:期待リターン2.0%、想定リスク6.0%(株式比率33.7%)
MP3:期待リターン3.0%、想定リスク8.3%(株式比率47.5%)
MP4:期待リターン4.1%、想定リスク10.6%(株式比率61.1%)
MP5:期待リターン5.0%、想定リスク12.9%(株式比率74.6%)
MP6:期待リターン6.0%、想定リスク15.2%(株式比率88.1%)
*「山口勝業・小松原宰明・服部陽一 2021 「時間軸とダウンサイド・リスクを考慮する積立投資のポートフォリオ選択」日本ファイナンス学会第 29 回大会報告論文」より一部抜粋。詳細な資産配分は論文を参照。
*期待リターンはすべてコスト控除後のものを記載
その結果
・モデルポートフォリオのリスク・リターン水準にかかわらず、当初数年は、元本割れ確率は比較的大きいものの、投資期間が長くなるほど元本割れ確率は低減していく
・投資期間にかかわらず、低リスクのポートフォリオよりも高リスク・高リターンのポートフォリオの方が、多少ではあるが元本割れリスクが低い(この理由について山口勝業氏は「近年の金融緩和政策のため内外債券の金利が低下したために、内外債券よりも内外株式のリスク・リターン比が相対的に高くなり、リスク水準を高めるほど、リスク・リターン比が上昇するためだと考えられる」としています)。
・株式の割合の高いリスクを取ったポートフォリオの方が低リスクのポートフォリオよりも平均的な資産価値が高くなり、目標到達時間も早まる
といったことが確認されたといいます。
中でも興味深いのは
・投資期間が十分に長ければリスクが高いポートフォリオほど、目標としているリターンに近づき、かつ元本割れ確率(元本割れが起こる確率)や損失率(元本に対しどのくらいの平均損失額があるか)が低かった
・リスクの低いポートフォリオは20年までは損失率を抑えられるが、20年超では損失率が相対的に高くなり、投資期間が20年以上の場合はリスクを取った方が、損失率が相対的に低下する、ということです。
おおむね20年を超えてくるとリスクの高いポートフォリオのほうがリスクの低いポートフォリオよりも元本割れが起こる確率が小さくなるというのは意外な結果です。講演を聴いた際、山口氏が「投資家は短期的な価格変動リスクを恐れて、低リスクポートフォリオを選択するよりも、自分のリスク許容度を見定めて、適切なリスク水準のポートフォリオを選択することが、長期投資において重要」とおっしゃっていたのが印象的でした。
ここで改めて振り返りたいのは自分自身のことです。具体的には、何歳まで積み立て投資を続けるのか(運用期間はあと何年くらいとれるか)、何歳までにいくらあればよいのか、一時的に下落したときに経済的にも精神的にも耐えられるのはどのくらいか、などです。
30代や40代(場合によっては50代も)、20年超の積み立て投資ができるのであれば、リスクをとって株式を中心とした投資信託の積み立てを行うことが、結果的に目標額に到達しやすくなります。そう考えると、やはり積み立て投資の恩恵を享受するには時間は貴重です。「リスクを取らないことが、実はリスクである」ことに早めに気づき、行動にうつすこと、継続することはとても大事なのです。
前回のコラムでは「126ルール:積み立てたお金は何年で2倍になるか」https://fpi-j.com/column/column4173/ を取りあげましたが、積み立て投資に関する研究が徐々に進んできていることは心強いですね。
*1「山口勝業・小松原宰明・服部陽一 2021 「時間軸とダウンサイド・リスクを考慮する
積立投資のポートフォリオ選択」日本ファイナンス学会第 29 回大会報告論文」。
https://ibbotson.co.jp/wp-content/uploads/2021/10/nfa2021.pdf
*2つみたてNISAを想定し、毎年年末の積立額を36万円(月額3万円相当)、積立期間を20年、目標金額を1,000万円としたときの内部収益率(IRR)は3.3%となるため、それが達成できるようなポートフォリオ。