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  • 2020.09.17
  • 年金
  • 谷内 陽一

意外と柔軟! 公的年金の「繰下げ受給」

公的年金の年金額は、国民年金なら保険料納付期間、厚生年金保険なら加入期間および給与(標準報酬)水準を基に算定されるため、現役時代の働きに比例するのが一般的です。しかし、受給開始の間際に、個人の選択により年金額を増やせる「ラストチャンス」があるのをご存知でしょうか?それが、今回紹介する公的年金の「繰下げ受給」です。

 

■繰下げ受給のしくみ
繰下げ受給とは、法定上の支給開始年齢である65歳から公的年金を受け取るのではなく、66歳以降70歳までの間で申し出た時点から受け取り始める仕組みです。繰下げ時期は月単位で指定でき、1月繰り下げるごとに年金額は0.7%増額されます。
現在の繰下げの上限は70歳まで(年金額は42%増額)ですが、法改正により、2022年4月からは75歳まで(年金額は84%増額)繰下げが可能となります。

 

■繰下げ受給のメリットは?
繰下げ受給の最大のメリットは、何と言っても年金額が増えることに尽きます。公的年金は終身給付なので、増額された年金額を終身にわたり(=亡くなるまで)受給し続けられます。

 

■どうやって手続するの?
繰下げ受給は、いつから受給開始するかを事前に決める必要はありません。66歳以降に公的年金を受給したくなった時点で、年金事務所等で受給手続きを行えば良いのです。

 

■途中で気が変わっても大丈夫?
公的年金は、請求手続きを行わない限りは、受給開始時期を最大70歳(2022年より最大75歳)まで繰り下げられます。例えば、「当初は70歳まで繰り下げようと考えていたものの、そろそろ貯蓄額が厳しくなりつつあるから、やっぱり68歳から受給しようと」といった方針変更が可能です。ただし、いったん受給を開始してしまうと、もはや方針変更はできません。

 

■繰下げ期間中に多額の出費が必要になったらどうしよう?
繰下げ受給には2つの方法があります。例えば、68歳まで繰り下げた場合、(1)増額された年金額を68歳から受給するか、(2)65~68歳までの未受給分を一括で受給する代わりに増額されない年金を68歳から受給する、のいずれかを選択できます。繰下げ期間中に入院や事故等で多額の出費が必要になった場合は、後者の方法を利用できます。

 

■何歳まで長生きすると繰下げ受給が有利なの?
公的年金は長生きリスク(厳密には「長生きに伴う資産枯渇リスク」)に備える保険なので損得計算は本来なじみませんが、一般的には、繰下げにより70歳から受給開始した場合、損益分岐年齢はおおむね81歳とされています。
ただし、名目額から税・社会保険料を控除した「手取り額」で比較すると、老齢厚生年金のモデル受給者(年240万円)の場合、手取り額が名目額より約15%減少する分、損益分岐年齢は82~83歳と約1~2年後方にシフトします。一方、老齢基礎年金のモデル受給者(年78万円)の場合、住民税の非課税基準や社会保険料の減免基準が適用されるケースが多くなるため、損益分岐点は79~80歳と約1~2年前方にシフトします。
まとめると、年金額が高いと損益分岐年齢は後方にシフトするものの、1~2年程度であれば繰下げ受給は十分に魅力的であると言えます。また、年金額が低いと損益分岐年齢は逆に前方にシフトするので、自営業者やフリーランスなど老齢基礎年金のみの受給者ほど繰下げ受給の恩恵をより享受できます。
※試算の詳細は、週刊東洋経済2019.7.13号に掲載の拙稿を参照のこと

 

■繰下げ受給で注意すべき点は?
とはいえ、繰下げ受給にも留意点が幾つかあります。
まず、繰下げ期間中は当然ながら公的年金を受給できないため、その間の生計費は別途準備しておく必要があります。また、就労しながら老齢厚生年金を受給すると、年金額の全部または一部が支給停止される「在職老齢年金」の対象になりますが、当該支給停止部分は繰下げ増額の対象外となります。
老齢厚生年金の受給開始時点で配偶者や18歳未満の子供がいる場合は、「加給年金」の存在も考慮する必要があります。加給年金とは、老齢厚生年金におけるいわば「家族手当」のようなものですが、これは老齢厚生年金を受給しないと受け取れません。仮に受給開始を70歳まで繰り下げた場合、配偶者に係る加給年金額(約40万円)は合計で40万円×5年=約200万円近く受給できなくなる計算になります。ただし、加給年金は老齢厚生年金に上乗せされる仕組みなので、老齢厚生年金は繰り下げずに老齢基礎年金のみを繰り下げれば、加給年金は無事に受け取れます。

 

■でも、あまり利用されていないんでしょ?
繰下げ受給の利用状況は、現在のところ芳しくありません。しくみ自体があまり知られていないことや、繰下げ期間中の「無年金状態」に耐えられるだけの経済的な余力が必要なことが主な要因で、実際に、老齢基礎年金のみの受給者ほどこの傾向は顕著です。加えて、現在の老齢厚生年金の受給者は、特別支給の老齢厚生年金(60歳以上65歳未満まで受給可能)が受給可能な世代ですが、60歳台前半で受給開始した年金を65歳時点で一旦取りやめるという選択は、人間の行動様式としてはなかなか習慣化しないものです。
しかし、生年月日が1961年4月2日以後の男性(および1966年4月2日以後の女性)からは、特別支給の老齢厚生年金が廃止され、公的年金の65歳受給開始が標準化します。繰下げ受給が本格的に活用されるようになるのは、1961年生まれの世代が65歳を迎える2026年4月以降になるのではないかと筆者は見ています。

 

以上、公的年金の繰下げ受給について解説しました。繰下げ受給にはメリット・デメリットがそれぞれありますが、「人生100年時代」と呼ばれる長寿社会が到来しつつある局面では、増額された年金額を終身にわたり受給できるうえ、受給開始までのライフプランの変化にも柔軟に対応できるという点では、実に有効な選択肢だと筆者は考えます。
いずれにせよ、繰下げするか否かの判断に迷ったら、「公的年金は長生きリスクに備える保険である」という基本原則に立ち返りましょう。

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