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先進医療から「多焦点眼内レンズでの水晶体再建術」が適用除外へ


「先進医療」といえば、高額ながん治療のための粒子線治療などを思い浮かべる人が多いかもしれません。先進医療は技術料部分が全額自己負担ですから、粒子線治療の場合300万円以上かかります。
しかし、例えば、重粒子線治療は、2016年4月から骨軟部がん(切除非適応の骨軟部腫瘍)、2018年4月から前立腺がんと頭頸部がん(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く)が、先進医療から‘卒業’し、保険適用が認められています。対象部位以外は、先進医療が継続して適用されます。

このように、先進医療は、保険外併用療養費の評価療養のひとつで、今のところ公的医療保険が適用されていないけれど、一定条件のもとに混合診療が認められた治療です。将来的に、保険適用になるかどうか評価段階にあるものを、試験的に導入しているにすぎません。
ですから、先進医療は、ずっとそのままというわけにはいかず、冒頭の粒子線治療のように、安全性や有効性が認められて保険適用されるか、あるいは、先進医療から外れるといういずれかの道を辿ることになります。

さて、そこで来年2020年度に向けた先進医療の改定について、影響が少なからずある身近な治療法が対象になりそうです。
その治療とは、先進医療Aに分類されている「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」です。これが先進医療から外れる見込みで、2019年12月13日、厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会の総会で、その旨が提案および了承されました。
影響が大きい理由は、先進医療の中でも施術件数が圧倒的に多いためです。直近の資料によると、年間実施件数は2万3859件となっており、ダントツの1位です。2位の粒子線治療1,663件と比較するとその差は歴然でしょう(※)。

「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」は、白内障の治療のひとつで2008年7月1日から先進医療の対象となりました。特徴としては、単焦点と違って、白内障と同時に老眼も治療できるという点。つまり、遠くも近くもはっきりキレイに見えるようになります。
費用は平均約66万円で、実施している医療施設も、先進医療に認定されている治療の中でも一番多く675施設もあります。
ちなみに、白内障治療において、1ヵ所にピントを合わせる単焦点眼内レンズは保険適用となっています。多焦点眼内レンズの最大のデメリットは高額なことですから、費用を負担できない患者さんは、単焦点を選び、老眼鏡で矯正を行うというのがスタンダードな選択だそうです(あと、多焦点眼内レンズの治療を受けた患者さんの一部から、夜間の光がまぶしいなどの不具合が出るケースもあり)。

では、先進医療から外れてどうなるのか?
今後は、白内障に対する「水晶体再建効果」に加え、術後に眼鏡を使用する必要がないというメリット(眼鏡装用率の軽減効果)を活かして、患者さんが自由に選べる「選定療養」となります。要するに、疾病に対する治療としては認められないけれども、患者さんのQOL(生活の質)を向上させる選択肢のひとつとなるわけです。
選定療養も保険外併用療養に分類されるもので、治療内容に影響のない「差額ベッド代」など、プラス料金を全額負担すれば、患者さんが希望する療養環境を利用できるよう設けられています。2016年4月から導入された「紹介状なしの大病院受診に対する定額負担」もこれに該当し、将来的に公的医療保険の適用になることはありません。

そして、先進医療から除外される=先進医療特約の対象にもならないということです。
ただ、先進医療保障における「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」については、先進医療保険金の支払いが多くなりすぎたため、ネット系生保など、先進医療保障の対象から外したり、保険加入から一定期間、保障の対象外の期間を設けたりする保険会社があるほどでした。
医療機関のなかには、「先進医療特約の対象になるので、保険に加入すれば医療費負担が軽減される」など、ホームページで紹介したり、保険セミナーを開催したりする病院も少なくないそうですから驚きです。患者さんの中には、複数の先進医療特約に加入して、治療を受ける人もいるとのこと。
このような、いわば「保険の逆選択加入」については、業界で数年前から問題視されていただけに、今回の改定について、保険会社としては、やれやれとほっと胸をなでおろしているところなのではないでしょうか?

※出所:中央社会保険医療協議会「平成30年6月30日時点における先進医療Aに係る費用」(平成29年度実績報告 ( 平成29年7月1日~平成30年6月30日 ) 実績報告より)。

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