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執筆者プロフィール
- CFP ファイナンシャル・プランナー
- 生活経済研究所長野 事務局長
- 日本FP協会静岡支部 支部長
- 東海ブロック 副ブロック長
- 2025.11.06
- 住宅
転職を伴う移住で「住宅ローンが借りられない」を乗り越える
なぜ「移住+住宅ローン」は難しいのか
近年、地方への移住を検討する勤労世帯が増えていますが、テレワークの普及や暮らしの質を重視する傾向から、「移住と同時にマイホームを取得したい」という希望も高まっています。しかし、移住と住宅取得を同時に進める際、最も大きな壁となるのが住宅ローンの審査です。住宅ローン審査では「返済能力」、すなわち安定した収入とその継続性が重視されるため、転職や勤務先変更を伴う移住では、この「収入の継続性」が未知数とみなされ、金融機関の審査が厳しくなります。
たとえば、民間の金融機関では同一勤務先での勤続1年以上を目安とされるケースが多く、転職直後では審査が通りにくい傾向にあります。比較的審査基準が緩和されている金融機関の場合でも、少なくとも転職後6ヶ月程度の勤務実績を求められるケースが一般的です。また、転職直後でも審査可能な【フラット35】においても、現在勤務している先での給与明細や給与証明書などの収入証明を求められるため、転職予定段階での審査申し込みはできません。
こうした事情から、「転職してから家を買う」という流れでは、住宅取得が難しくなる可能性があり、転職を伴う移住を考える段階では住宅ローンの戦略も同時に考えておく必要があります。
転職前に審査を済ませて融資実行後に転職するのはOK?
移住と同時に住宅取得をする場合の住宅ローン審査では、転職前にローンの申し込みを完了し融資承認を得たうえで、住宅の完成と融資実行後に転職するという対策も考えられます。この場合、現在の住まいに近い場所への移住であれば、金融機関も見過ごすかもしれませんが、遠く離れた県外などに新たな住宅を取得するための住宅ローン審査となれば、金融機関は転職の有無を確認します。そこで転職予定が発覚すれば審査の通過はほぼ絶望的になります。
セカンドハウスという選択
【フラット35】はセカンドハウスを取得するための利用も可能です。現在の住まいに居住しながら、週末を過ごすセカンドハウスの購入資金を住宅ローンとして借りられます。この場合、住宅ローン実行後も取得した住宅を名実ともにセカンドハウスとして利用しますが、ある時期にその取得した住宅をセカンドハウスではなく、主に居住する住宅として利用するため、住民票も異動したうえで転職する方法もあります。
ただし、この場合は新たに取得した住宅はセカンドハウスであるため、住宅用家屋証明が取得できないため登記に関する登録免許税の軽減を受けられません。また住民票の異動も居住の実態も無いため、住宅ローン減税も受けられない点は注意が必要です。
移住支援制度・金融機関の特例の活用
移住と住宅取得の両立が難しいとはいえ、そこで諦める必要はありません。制度・金融機関の選び方に工夫を加えることで、可能性が広がる場合もあります。たとえば、静岡県の静岡銀行、山梨県の山梨中央銀行、長野県の八十二銀行が共同で提供する「富士山・アルプス アライアンス 移住応援ローン」は、勤続年数に関わらず審査可能な点が大きな特長です。転職直後、移住を機に就職・転職したタイミングでも申し込みを受け付けており、勤務先変更による不安を軽減しています。
また、最長5年まで利息支払いのみにできる選択肢があり、移住直後の収入定着前でも住宅ローン返済をスタートしやすくなっています。さらに、住み替え前の旧居売却が済んでいなくても借入が可能という柔軟な対応もあり、移住・住宅取得の準備期間に余裕を与えています。
ただし、審査の条件書類に「転職先の就職内定通知」などがあるため、建売住宅や中古住宅のように、転職先の内定直後に新しい住まいに引っ越せるケースを除いては利用が難しいという側面もあります。
まとめ
このように、地方銀行などは新しい顧客獲得のため「移住歓迎」や「転職対応可」の住宅ローン商品を打ち出しており、移住者・転職予定者にも選択肢が広がっています。都市部の大手銀行やネット銀行だけでなく、地方銀行などの制度比較及び検討も実務的には極めて重要です。
移住を機に住宅取得を目指す勤労者にとって、働き方や暮らし方を変える決断と住宅ローンを含めた資金戦略は一体で考えるべきであり、転職のタイミング、自己資金の確保、金融機関・商品選びなど、これらを移住検討段階から設計しておく必要があります。

