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元本確保型の反対語は「元本変動型」!?


確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)における運用商品の分類は、「元本確保型商品」と「それ以外の商品」に大別されるのが通例ですが、後者のことを「元本変動型」と称する動きが一部に見られます。およそ日本語を理解していれば口にするのも憚られる言葉であることは、以前にもこのコラムで取り上げました(※1)。今回は、「元本変動型」の珍妙さについて改めて解説します。

■元本「変動型」とは???
企業型DCまたはiDeCoにおける運用商品の分類のうち、元本確保型商品(法令上の表記は「元本確保型の運用の方法」)については法令・通達等で明確に定義されています。一方、元本確保型以外の運用商品、すなわち投資信託などのリスク性商品については法令上特段の言及はないため、「元本確保型以外の商品」「価格変動型商品」「投資信託等」などと表記されるのが一般的です。
ところが近年、元本確保型の反対概念として「元本変動型」という表記が台頭しています。おそらく、元本確保型とは正反対のものであることを強調したいがために、「確保」と「変動」を入れ替えて使用しているものと推察されます。しかし、これが個人のSNSでのつぶやきならばまだ笑い話で済みますが、FPや経済ジャーナリストといった専門家の肩書で使用されたり、果ては大手金融機関のパンフレットや公式Webサイトで多用されたりしている現状は、いち実務家としては看過できません。

■変動するのは「価格(時価)」、元本は「増減」
そもそも元本(がんぽん)とは何でしょうか。金融広報中央委員会「知るぽると」によれば、元本とは「金融商品の購入・投資に充てた資金の額。いわゆる元手」のことを意味します(※2)。
例えば、100万円で購入した投資信託が50万円に値下がりした場合、これを「元本が50万円に目減りした」と表するのは誤りです。元本とは、最初の購入資金に充てた100万円のことであり、購入後に価格がどう上下しようが、最初に100万円で購入したという事実は変わりません。よって、上記の状況は「価格(時価)が50万円に下がった」と表記すべきです。厳密には、元本とは価格や金利の上下によって変動するものではなく、投資家が資金の追加あるいは取り崩しを行う際に「増減」するものです。
また、元本と時価を厳密に区分することは、資産運用のパフォーマンス(収益率)測定を行う上では大前提です。前述の100万円で購入した投資信託が50万円に値下がりしたケースでは、収益率はマイナス50%(=(時価50万円÷元本100万円)-1)となります。しかし、元本が50万円に目減りしたと認識してしまうと、収益率は0%(=(時価50万円÷元本50万円)-1)となってしまい、正確なパフォーマンス測定が困難になります。これでは、「当社の投資信託は元本変動型であり、価格の減少とともに元本も減少するので、元本割れは絶対に起こりません!」などという詭弁が成り立ってしまいます(汗)。

いずれにせよ、「変動するのは価格(時価)であって元本ではない」という金融のごく基本的な知識さえ踏まえていれば、「元本変動型」という日本語がいかに珍妙であるかはご理解いただけるかと存じます。こんな言葉を使用して恥じない金融機関や専門家は、たとえ大手(著名)であっても信用してはいけません。今年2024年4月に設立予定の金融経済教育推進機構には、わが国の金融リテラシー向上施策の第一歩として、まずは「元本変動型」の絶滅から着手していただきたいものです。

(※1)世にも奇妙な資産運用用語 (2020年5月21日上程)
https://fpi-j.com/column/column1295/

(※2)元本(元本保証・元本割れ)とは (金融広報中央委員会:知るぽると)
https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/yogo/k/ganpon.html

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