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エンディングノートの本当の価値とは


いまや知らない人はいないであろう「エンディングノート」が、広く世間に認知されたのは2012年前後とされています。そもそも「終活」という言葉が初めて使われたのは2009年頃で、週刊誌の連載記事というのが定説です。その後、終活に関する書籍が出版されたことを機に徐々に広がりはじめ、2011年の映画「エンディングノート」の公開と興行上の成功や、2011年「ユーキャン新語・流行語大賞」に「エンディングノート」がノミネート、翌2012年には「終活」がトップテンに選出されるなどを経て、社会的にも広く認知されました。

当時のブームともいえる広がりには、「団塊の世代」が定年退職を迎えるなど、日本の高齢化を象徴する時代だったという背景があります。
実際に、2012年(平成24)4月には65歳以上の人口が3,000万人を超え本格的な高齢化社会を迎えたことや、配偶者や家族をもたない高齢者が多くなるなど、独居老人や孤立死が増えたこと、東日本大震災でみられたように、年齢を問わず誰にも「不慮の死」が訪れ得ることが広く再認識されたことなども影響したと考えられます。

◆エンディングノートとは
終活に関する自分の考えや希望などを残しておくためのノートです。その主たる目的は、自分の死後に家族等の遺された人達が困らないように、各種の手続きに必要な情報を書いたり、葬儀や終末医療・介護に対する希望をまとめたりします。「終活ノート」と呼ばれることもあり、終活の中でも重要な要素となっています。

エンディングノートには、決まった形式や書式はなく法的拘束力もない反面 、思いつくことだけを記入したり、後で何度でも書き直したりもできます。書店では多くの種類が販売されていますし、自治体や葬儀社、保険会社などが無料配布しているものもあります。また、アプリなどのデジタル版といわれるエンディングノートも増えてきています。普通のノートに必要事項を記載し、オリジナルのエンディングノートを作る方法もあります。

◆遺言との違い
エンディングノートとは違い遺言には法的効力があります。
エンディングノートが、死後の手続きなどについてお願いはできても、強制させることはできないのに対し、遺言は、相続財産の分割の仕方などについて、遺言内容に従わせることができます。それゆえに、遺言は決められた形式で書かなければなりません。決められた形式以外の書き方をした場合は、法的効力を持たず無効となってしまいます。

内容にも大きな違いがあります。
エンディングノートが、書く内容も自由であるのに対し、遺言は、死後の相続財産の処理について書かれていなければ、その効力を有しません。

◆エンディングノートの本当の価値
語弊を恐れずにいうと、「終活」も「エンディングノート」も「遺言」も、多くの人からは「死んでいくための準備」と思われているかもしれません。確かに、遺言にはその要素があります。自分の死後に、財産をどうするかについてしか記載ができず、その効力が発揮するのも遺言者が死亡した時、つまり相続が発生した時だからです。しかし、エンディングノートは違います。死後だけでなく、生前に起こることついても記載ができ、また、それを書くこと自体がその人の人生を豊かにもします。
エンディングノートも遺言も、絶対に書かなければいけないものではありませんが、それぞれに異なる役割があることを意識しておくべきでしょう。

その認識を深めるために、1つのエピソードをご紹介します。2012年10月に、41歳の若さで亡くなった流通ジャーナリスト・金子哲雄さんの終活についてです。
金子さんが、命を落とす原因となった肺カルチノイド(非常にまれな肺がんの一種)と診断されたのは2011年6月でした。医師からは「いま目の前で亡くなったとしても驚かない」といわれたほど悪化した状態だったそうです。
当初はその事実に狼狽し、人前に出るとき以外は泣いていた金子さんですが、日頃からテレビ番組などのメディアで「賢い買い物は人生を豊かにする」と繰り返し主張していたことから、「自分の葬儀は決して間違えたくない」と思い立ち、「自分にふさわしい葬儀をしたい」との信念から終活を始めたそうです。
その様子をそばで見ていた奥様は、「こういう言い方はよくないかもしれませんが」と前置きしたうえで、「夫は何だか楽しそうでした」と回想しています。「よりよく生きたいからと有機野菜を選ぶ人がいるように、夫は流通ジャーナリストとしてよりよく生きたい、よりよくありたいと葬儀の計画をしていった」と。それは死への準備ではなく、懸命に生きる姿そのものだったのでしょう。

そんな金子さんの最後は、「完璧な終活」といわれました。死後10年以上が経ってもなお、こうして人から人へと伝えられ、記憶に留まり続けています。
人が、自分の命の限りを意識したときに、自分はどう生きたいのかを決めること、書き記すこと、また、それを周囲の大切な人に残し、知ってもらえること、それがエンディングノートの本当の価値ではないでしょうか。

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