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高齢者虐待の見過ごせない現実


介護保険制度が開始した2000年以降、要介護・要支援認定者は増え続けています。高齢者人口の増加が一因とも考えられますが、第1号被保険者全体に占める要介護・要支援認定者の割合も増加していることから、日本人の長寿化とも関係があるといえます。

●現在の介護形態
在宅による介護サービス利用者がおよそ8割、施設で介護サービスを利用する人は残りの2割程度です。在宅による介護は増加が著しく、2000年4月の97万人から2019年4月の378万人へと20年間で3.9倍になっています。施設による介護は2000年4月の52万人から2019年4月の95万人へと1.8倍に留まっていることから、在宅介護の比率が高まりつつあることがわかります。
しかし、利用者が少ない施設介護でさえ20年間で2倍近くに増加しており、昨今の世帯構成の変化を考慮すると、今後は施設介護の必要性が高まったとしても不思議ではありません。

●施設介護への障壁
希望すれば必ず入居できるとは限らないのが施設介護です。特に公的施設である特別養護老人ホームは、初期費用が不要なうえに利用料金も安いがゆえに希望者が多く、待機期間(入居待ち)が必要なケースがほとんどです。また、対象者を原則として要介護3以上に限定していることから、要件を満たさず入居ができない人もいるでしょう。
入居待ちが起こりにくい、介護付き有料老人ホームといった民間施設も数多くありますが、多くの場合、入居時に初期費用として一時金が掛かり、毎月の利用料も公的施設よりも高額となるため、経済面が障壁となる世帯もあります。

一方で、要介護状態にある高齢の親などの介護や生活全般を、親族以外の手に委ねることが心の障壁となる人もいるでしょう。施設介護を選択することに対し「甘えていると思われるのではないか」といった抵抗感を覚えるケースです。
また、「入居先でつらい目に合うのではないか」や「不自由を強いられるのではないか」のように、要介護状態にある親族の身体や気持ちを心配する人も少なくないはずです。介護施設の職員などによる高齢者虐待のニュースは誰もが目にした経験があるため、心配になるのも当然でしょう。

●高齢者虐待の現実
厚生労働省の調査統計によると、2021年に養介護施設従事者等※1による高齢者虐待と判断された件数は739件、相談・通報の件数は2,390件でした。これに対し養護者※2による高齢者虐待と判断された件数は16,426件、相談・通報の件数は36,378件と、虐待件数で約22倍、相談・通報件数で約15倍にものぼります。
施設介護の利用者が95万人に対し、居宅による介護サービス利用者は378万人と、4倍近い人数比があることを鑑みても、親族などの養護者による虐待が圧倒的に多いのが現実です。

さらには、虐待している養護者に自覚があるケースばかりとも限りません。介護の専門家ではない養護者は、高齢者が危険な状態に陥っていても、虐待の自覚がないことが多いといわれています。周囲からは些細なことに見えても、本人には大きな影響を与えてしまうケースや、養護者の知識不足から不適切な対応になってしまうケース、高齢者のためを思ってとった行為が虐待に繋がってしまうこともあります。

●なにが虐待なのか
高齢者虐待とは、他者からの不適切な扱いにより権利利益を侵害される状態や生命、健康、生活が損なわれるような状態に置かれること全般をさします。
これは暴力的な行為(身体的虐待という)だけではなく、暴言や無視、いやがらせ(心理的虐待)、必要な介護サービスの利用をさせない、世話をしないなどの行為(介護・世話の放棄・放任)や、勝手に高齢者の資産を使ってしまうなどの行為(経済的虐待)、また当然ですが、性的ないやがらせなど(性的虐待)も含まれます。

親族などの養護者による高齢者への虐待は、家族を思い介護に懸命にかかわるからこそ起こるものでもあります。大切な家族と思い一生懸命にかかわるからこそ、うまくいかなかった時の苛立ちが怒りに変わってしまいがちなのです。「自分で介護し過ぎる」ことが、結果として大切な家族を虐待してしまうリスクになるのだとしたら、一人で頑張り過ぎないことがむしろ大切なのではないでしょうか。

※1 介護老人福祉施設、居宅サービス事業等の業務に従事する者をさす
※2 高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等をさす

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