コラムColumn
執筆者プロフィール
- CFP ファイナンシャル・プランナー
- 生活経済研究所長野 研究員
- NPO法人ら・し・さ 終活アドバイザー協会 副理事長
- 2021.09.02
- 年金
公的年金の繰上げ繰下げのルールが変わります
現在の公的年金制度は、65歳支給開始が原則ですが、受給開始時期を早めたり、遅らせたりできます。開始時期を早めることを「繰上げ受給」といい、この場合、受給できる毎年の年金額は減ってしまいます。一方、開始時期を遅らせることを「繰下げ受給」といい、この場合は、年金額を増やせます。繰上げ受給は60歳から開始でき、繰下げ受給は最長で70歳まで引き延ばせます。この繰上げ繰下げの制度について、2022年4月からは、「繰上げの場合の減額率」および「繰下げ開始年齢の延長」の2点について変更になります。
1.現在の制度 (2022年3月までに受給開始した場合)
現在の制度では、繰上げ受給では開始時期を1ヶ月早めるごとに0.5%年金額が減ります。
仮に年金額が70万円だった場合、年金開始時期により、次のように受給できる年金額は減っていきます。60歳に受給開始すると、年金額は30%減額され、49万円となります。
(1) 70万円の年金を繰り上げたときの年金額
受給開始年齢 減額率 年金額
64歳から 6%(0.5%×12ヶ月) 65.8万円
63歳から 12%(0.5%×24ヶ月) 61.6万円
62歳から 18%(0.5%×36ヶ月) 57.4万円
61歳から 24%(0.5%×48ヶ月) 53.2万円
60歳から 30%(0.5%×60ヶ月) 49.0万円
繰下げの場合には、1ヶ月ごとに0.7%増えていきます。最長の70歳から受給開始すると、42%(0.7%×60ヶ月)増え、99.4万円になります。
(2) 70万円の年金を繰り下げたときの年金額
受給開始年齢 増額率 年金額
66歳から 8.4% (0.7%×12ヶ月) 75.88万円
67歳から 16.8%(0.7%×24ヶ月) 81.76万円
68歳から 25.2%(0.7%×36ヶ月) 87.64万円
69歳から 33.6%(0.7%×48ヶ月) 93.52万円
70歳から 42.0% (0.7%×60ヶ月) 99.40万円
2.2022年4月以降のルール
前述した繰上げ受給時の減額率と繰下げ受給時の開始年齢が、来年2022年4月からは繰上げは減額率が、1ヶ月あたり0.4%に緩和されます。60歳受給開始では年金額は24%減となり、仮に65歳受給開始で70万円だったときの金額で比べると、現在は49万円ですが改正後は53.2万円となります。
(1)70万円の年金を繰り上げたときの年金額
受給開始年齢 減額率 年金額
64歳から 4.8% (0.4%×12ヶ月) 66.64万円
63歳から 9.6% (0.4%×24ヶ月) 63.28万円
62歳から 14.4%(0.4%×36ヶ月) 59.92万円
61歳から 19.2%(0.4%×48ヶ月) 56.56万円
60歳から 24.0%(0.4%×60ヶ月) 53.20万円
繰下げについては、増額率は変わらないものの最長繰下げ年齢が75歳まで延長されます。75歳まで受給開始を遅らせると、最大で84%年金額を増やせるようになります。延長される期間の年金額の例は次のようになります。
(2) 70万円の年金を繰り下げたときの年金額(70歳までの年金額は省略)
受給開始年齢 増額率 年金額
71歳から 50.4%(0.7%×72ヶ月) 105.28万円
72歳から 58.8%(0.7%×84ヶ月) 111.16万円
73歳から 67.2%(0.7%×96ヶ月) 117.04万円
74歳から 75.6%(0.7%×108ヶ月) 122.92万円
75歳から 84.0%(0.7%×120ヶ月) 128.8万円
3.繰上げ・繰下げ受給時の注意点
公的年金を繰上げ・繰下げするときには、単純に受取総額を計算するだけでなく、次の点にも注意しましょう。
(1) 一度選択すると、途中で取り消しはできない
(2) 繰上げは、老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に行う
(3) 繰下げは、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に行える
(4) 特別支給の老齢厚生年金(65歳未満に支給される)について
・繰上げ・繰下げはできない
・特別支給の老齢厚生年金と繰り上げた年金は同時に受給できない
(5) 遺族厚生年金について
・繰上げ・繰下げしても、遺族年金の額は65歳からの年金額をベースに計算
(6) 在職老齢年金について
・繰上げ・繰下げはできるが、本来の支給停止分の計算は変わらない
・繰上げでは減額された年金から本来の停止額が差し引かれる
・繰下げでは支給停止分を差し引いた部分だけ増額の対象となる
(7) 加給年金について
・繰上げ・繰下げでも金額は変わらない。
・本人が65歳になるまでは加給年金は支給されない
・妻が繰上げ受給すると、夫の加給年金が支給されないことがある
これまで見てきたように、家族構成や年齢、働き方、他の収入があるかどうかによって、繰上げ繰下げの損得は違ってきます。そもそも、人の寿命は予想できないので、純粋に損得を計算するのは至難の業といえるでしょう。
一度選択したら変更はできず、将来にわたって同じ年金額となりますので、選択にあたっては、持っている資産や今後の支出見込み、暮らし方を含めた総合的な判断が必要になります。