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「改正民事執行法」で離婚時の養育費の‘逃げ得’防げる?


先日、とある勉強会で「夫婦関係の危機」と題してセミナーを行ったときのことです。
筆者が作成した資料に「2016年全国ひとり親世帯等調査結果報告」のデータを引用したのですが、養育費の受給状況に関して「離婚した父親からの養育費を受けている」人の割合が「24.3%」(離婚した母親からの場合は3.2%)、「養育費を現在も受けているまたは受けたことがある世帯のうち額が決まっている世帯の平均月額は、母子家庭では43,707円」(父子家庭では32,550円)という数字を見て、参加していた弁護士の方から「え?こんなに多いの?」と驚きの声が上がりました。
調査では、母子家庭の約4人に1人が毎月4万円以上もらっているという結果でしたが、そのベテラン弁護士曰く、「実際の離婚案件では、養育費はこんなに高くない。しかも、もらっていないシングルマザーの方がほとんど」とのこと。
もちろん離婚して、子どもを父親が育てているシングルファザーもいらっしゃいますが、経済的な困窮度を勘案して、以下は母子家庭を前提としたお話とします。

そもそも養育費とは、子どもが成人するまでにかかる衣食住や教育費、医療費など、必要な費用のこと。
未成年の子どもがいる夫婦が離婚した場合、離婚後も親子であることに変わりはないため、養育費を分担して負担する義務があります。一方、子どもにとって、養育費は権利であり、離れている親からの愛情の証でもあるのです。
ところが、実際には、裁判などで養育費を取り決めたにもかかわらず、全く支払わない。初めは支払われたが、再婚など生活状況の変化などで次第に支払われなくなった等々。養育費の不払いによって、ギリギリの生活がさらに困窮する母子家庭は少なくありません。
それどころか、前掲の調査では、「相手と関わりたくない」「相手に支払う能力や意思がないと思った」などの理由から、養育費の取り決めをしていない母子家庭が6割近くにものぼります。
また、養育費は、公的制度である「児童扶養手当」とも関連しています。
児童扶養手当とは、父母が離婚などによって、父または母の一方からしか養育を受けられない一人親家庭等の児童のために、地方自治体から支給される手当のこと。
一定の要件を満たす母子家庭は、児童手当に併せて受給できるのですが、「あてにならない養育費をもらうよりは、児童扶養手当を全額もらいたい!」と養育費をもらわない選択をする人もいるそうです。
というのも、児童扶養手当は、定額支給ではなく、所得に応じて全部支給と一部支給があり、金額が変わるしくみ。2002年8月改正で、別れた親から支払われる養育費の8割が自己申告によって収入に算入されることになったため、収入が増えると児童扶養手当が減る!というわけです。
なお、申告しない場合、不正受給として返還を求められるとされていますが、申告しない人がほとんど、というのが現状と言われています。

このように、以前から養育費不払いは大きな問題になっていました。
でも、素人考えでは、「払ってくれないんだったら、給料でもなんでも差押えができるんじゃないの?」と思ってしまいますよね?
もちろん、養育費は、差し押さえ(強制執行)など法的手段で回収できます。とくに、調停で養育費の支払いを合意した場合や公正証書に「直ちに強制執行に服する」といった条項(強制執行認諾文言)を明記してある場合などは、訴訟しなくても、差し押さえによって回収可能です。
ところが、預貯金を差し押さえるには預金口座がある金融機関の支店名、給料なら勤務先を特定することが必要で、その相手が転職したため現在の勤務情報がわからない、連絡も取れないなど、法的手段を取るには、ハードルが高いというのが現状だったのです。
そこで、こういった、いわゆる養育費の‘逃げ得’の横行を防止すべく、2019年5月に改正民事執行法が成立しました(施行は成立から1年以内)。
改正法のポイントは、不払いの相手の財産情報取得に対する強制執行力を持たせた点です。
改正後は、公正証書も含め調停離婚による確定判決などに基づいて地方裁判所に申し立てれば、金融機関や市区町村などから、相手の預貯金の口座情報や勤務先の情報を取得できるようになります。
また、現行の財産開示手続きを申し立てに対して、相手が裁判所からの呼び出しに応じない場合の罰金も30万円以下から50万円に引き上げられます。
このほか、養育費不払い問題に関しては、2019年1月から、兵庫県明石市で「養育費保証事業」が全国ではじめて導入されるなど、自治体レベルでの取り組みにも注目です。
離婚の増加によって、前述の児童扶養手当などは頻繁に改正が行われる中、実効性のある法改正によって、養育費の不払いをあきらめた方がほとんどだった状況が改善されることを切に願っています。

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