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それでも公的年金を繰上げ受給しますか?


筆者は以前のコラム(※1)で公的年金の繰下げ受給について解説し、「(中略)メリット・デメリットがそれぞれあるものの、人生100年時代においては有効な選択肢」と述べました。にもかかわらず、世間では「税金や社会保険料の負担が増える」だの「繰下げ受給の拡大は将来の支給開始年齢引上げの布石」だのといった誤解・曲解・陰謀論が幅を利かせています。そこで今回は、公的年金の「繰上げ受給」について解説します。

■繰上げ受給のしくみ
繰上げ受給とは、法定上の支給開始年齢である65歳から公的年金を受け取るのではなく、60歳以上65歳未満の間で請求した時点から受給開始するしくみです。繰上げ時期は月単位で指定でき、1月繰り上げるごとに年金額は0.5%(最大5年間の繰上げ(60歳受給開始)で30%)減額されます。
なお、法改正により、2022年4月からは繰上げ受給の減額率が月0.4%(最大5年間の繰上げで24%)に緩和されます。ただし、この減額率が適用されるのは2022年4月1日以降に60歳になる方が対象で、それより前に60歳になった方については請求時期が2022年4月以降であっても減額率は従前のままなので、その点ご注意ください。

■繰上げ受給のメリットは?
繰上げ受給の最大のメリットは、早くから年金を受け取れることに尽きます。年金額は繰上げ期間に応じて減額されますが、公的年金は終身給付なので、亡くなるまで受け取り続けられます。

■繰上げ受給のデメリットは?
繰上げ受給は、65歳よりも早く年金を受給開始できる代わりに、減額された年金額が一生涯続きます。一度繰上げ受給を選択してしまうと、二度と変更できません。60歳から受給開始した場合と65歳から受給開始した場合を比較すると、おおむね80歳で総受取額が逆転する計算になります。

■繰上げ受給で他に注意すべき点は?
年金額の減額以外にも、以下の点に注意する必要があります。配偶者の死亡や障害など、ライフプランの変化に柔軟に対応できないのがネックです。
・国民年金への任意加入(および保険料の追納)ができない
・障害年金や寡婦年金の受給ができない
・65歳になるまで遺族年金との併給ができない
・加給年金や振替加算は繰上げ受給できない
・老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給開始年齢を個別に設定できない

■でも、繰上げした方が税金や社会保険料は安くなりますよね!?
一般的に、税金や社会保険料の負担は収入(あるいは所得)に比例します。年金額が高い場合、税金や社会保険料の負担は確かに増えるものの、税・社会保険料控除後の「手取り額」は年金額が低い場合よりも確実に多くなります。例えば、現役の会社員が昇給を打診されて「税金・社会保険料が上がるからやめて欲しい」とは誰も言わないはずですが、こと公的年金となると妙にこだわる人が増えるのは理解に苦しむところです。公的年金を受け取る目的は、「豊かな老後を過ごすため」あるいは「長生きに備えるため」であって、「税金や社会保険料を1円たりとも負担しないため」ではない筈ですが・・・
また、「住民税の非課税基準まで年金額を下げるべき」との極端な意見もたまに聞かれますが、非課税基準は世帯構成や居住地によって異なるうえ、配偶者との死別、転居、税制改正等によって容易く変動するので、過度にこだわるのは禁物です。基準が変わって非課税メリットだけが失われ、減額された年金だけが一生続く危険性もあります。

■でも、受け取る前に死んだら「払い損」では!?
公的年金には、「受け取る前に死んでしまったら払い損だ」との批判が常につきまといます。これについては、年金相談の現場から生まれた「繰下げて後悔するのはあの世、繰上げて後悔するのはこの世」という格言を紹介しておきます。どちらも後悔することに変わりはないものの、経済的な深刻さを伴うのは「繰上げ受給で年金額が少ないのに長生きしてしまった場合」です。人間いつ死ぬかは誰にも分かりません。

■公的年金の減少はiDeCoでカバーできる!?
2022年5月からiDeCo(個人型確定拠出年金)の加入可能要件が見直され、最大で65歳未満まで加入可能となります。このため、「公的年金を繰上げ受給して年金額が減らされても、そのぶんiDeCoでカバーすれば良い」と目論んでいる方がいるかもしれません。
しかし、iDeCoに加入できるのは公的年金被保険者に限られるため、繰上げ受給を選択すると(=被保険者から受給者になると)、iDeCoには加入できなくなります。既にiDeCoに加入していた場合も、繰上げ受給を開始した時点でiDeCoの加入資格を喪失します。60歳以降もiDeCoを活用したいなら、繰上げ受給は選択してはいけません。

以上、公的年金の繰上げ受給について解説しました。繰上げ受給は、早期に受給開始できるメリットよりも、減額された年金額が一生涯続くうえライフプランの変化に柔軟に対応できない弊害の方がむしろ大きいと言えます。「人生100年時代」と呼ばれる長寿社会において、終身給付たる公的年金は老後所得保障のリリーフエースであり、抑えの切り札の出番はなるべく終盤に持ち越すべきと筆者は考えます。
いずれにせよ、繰上げするか繰下げするかの判断に迷ったら、「公的年金は長生きリスクに備える保険である」という基本原則に立ち返りましょう。

(※1)意外と柔軟! 公的年金の「繰下げ受給」(2020年9月17日上程)
https://fpi-j.com/column/column1390/

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