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近年の携帯電話料金激変…2021年どうなる?


「携帯電話料金は4割程度引き下げられる余地がある」

2018年当時、官房長官だった菅総理の発言を機に(1)料金の抜本的な引き下げと(2)安いプランへの移行障壁を無くすため、総務省は大手三社(docomo、au、SoftBank)に対し値下げ圧力をかけるようになりました。その執拗さと強権ぶりは一般消費者の目にもあきらかで、結果として大手三社の携帯電話料金を激変させるに至っています。

■ 料金引き下げに先鞭をつけた格安SIM
それ以前より料金引き下げの役割を果たしてきたのは格安SIM事業者です。たとえばBIGLOBEモバイルはYouTubeなどの動画視聴に関する通信料をカウントしないサービス(※1)を設け、基本料金を安価にする料金プランを提供してきました。

■ 大手三社は再び足並みが揃う
ところが、総務省の圧力によって2021年2月にはdocomo(ahamo)、au(povo)、SoftBank(LINEMO)の大手三社の新料金プランが出揃い、その格安SIM事業者とのポジションが激変しました。三社ともデータ通信20GB+音声通話5分かけ放題が基本で、月額料金はほぼ横並びの2,700~2,980円と、格安SIM事業者の料金を下回る設定です。

そもそも、大手三社は自前の通信回線を使用する事業者(MNO(※2))ですが、格安SIMは大手三社から借り受けた通信回線でサービスを提供する事業者(MVNO(※3))です。その構造上、借り受けた通信回線の(大手三社に支払う)使用料を無視した料金設定はできず、その自由度にも限界があります。

今回の大手三社の料金設定は、卸売り業者が小売店より安い価格で小売りを始めたようなもの。料金的なアドバンテージを失った格安SIM事業者の存在は急速に薄れ、より大手三社の寡占状態に拍車がかかると予想されます。

■ 楽天モバイルの台頭
楽天モバイルは2020年4月から自前の通信回線を構築し、MNOとして再スタートしました。当初は契約申込者数が200万人を突破するのに約9ヶ月を要するなどの苦戦を強いられましたが、新プラン「UN-LIMIT Ⅵ」を2021年1月29日に発表し、わずか2ヶ月間で契約申込者数100万人を増やすなど、急成長を見せています。

この新プランはたくさんデータ容量を使うヘビーユーザーでも月額2,980円が上限で、大手三社の新料金プランと同価格帯ながら、(1)データ通信も容量無制限で、音声通話も無料という、三社にはない要素で群を抜きました。(2)また、データ通信量が20GBまでなら1,980円、3GBまでなら980円と安価になる上に、(3)1GBまでならまったく無料で利用できるという三社との差別化が一目で分かりやすく、1年間はすべて無料というオマケ(※4)つき。ヘビーユーザーにもライトユーザーにも魅力が感じられる料金プランで注目を集めることに成功しています。

■ 実はあまり使われていないデータ通信
統計(※5)によると、データ通信使用量は1ヶ月で5GB未満が全体の66.5%、2GB未満が49.5%と、実はデータ通信容量が少ないライトユーザーが多いのが現状です。

大手三社が出した新料金プランは20GBまで定額で、ヘビーユーザーに力点が置かれているようにも見受けられます。一方で、格安SIM事業者は6GB未満の料金プランを改定していて、ライトユーザーに力点を置いています。とはいえ、本当のライトユーザーは楽天が無料にしていますから勝ち目がありません。そこで、IIJmioは6GBを1,520円、3GBを900円で提供し、楽天モバイルを局所的に下回る料金設定をしています。具体的には5GB程度を使用する人に焦点を当てた料金設定で、ヘビーユーザーでもなくライトユーザーでもない、ニッチな中下層に絞らざるを得なかった様子が伺えます。

■ 当面の業界動向を予想
最近は大手三社+楽天モバイルの四強だけの戦いが目立ち、格安SIM事業者は完全に蚊帳の外に追いやられてしまった感があります。四強は自前の回線であるが故に自由な料金設定ができますが、格安SIM事業者は回線使用料というコスト負担から脱却できず、今後も相当に苦戦を強いられるでしょう。最悪、すべての格安SIM事業者が根絶やしにされるシナリオすら現実味を帯びてきました。

楽天モバイルは自前の基地局ではカバーできない圏外エリアはauから回線を借り受けています。そのコスト負担は重く、1GBあたり月500円といわれています。積極的に基地局を急速拡大しており、計画より前倒してauに支払うコスト削減により収支改善を狙っていますが、このエリア拡大を実現させているのは楽天モバイルが自社開発した「ネットワーク機能仮想化」という技術です。

大手三社が専用機械で構築しているネットワークを、汎用性のある安価なサーバーやソフトウェアで構築するもので、基地局の設置や保守にかかる費用も大幅にコストダウンできる画期的な技術です。世界初の試みとして楽天モバイルが実現を果たし、大規模な運用を実証できている点は注目に値します。この技術やシステムを欲しがる海外のMVNO事業者も増えてくるはずで、その外販も視野に入れた計画の実現は大手三社には難しく、楽天モバイルの将来の突破口になる可能性が高まりました。

大手三社が出した新料金プランはいずれも店舗での受付ができないネット申し込み専用という制限を設けて設定されています。本稿執筆時点ではいずれも正式スタートしていませんが、大手三社の実店舗には(制限を無視して)新料金プランへ乗り換え要望が集中するのは想像に難くありません。

これまでも安いプランへの移行障壁を無くすために執拗な圧力をかけてきた総務省ですから、なし崩し的に新料金プランの店舗受付を認めさせる可能性もあるでしょう。そうなれば、大手三社の新料金は自分たちの首を絞めることとなり、強烈な収益悪化に見舞われることが予想されます。

まさに、通信業界は群雄割拠の戦国時代を迎えています。

※1 エンタメフリーオプション。2021年3月現在は月額280円
※2 Mobile Network Operator(移動体通信事業者)
※3 Mobile Virtual Network Operator(仮想移動体通信事業者)
※4 2021年4月7日申し込みをもって終了予定
※5 総務省の携帯電話ポータルサイトより

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