コラムColumn
執筆者プロフィール
- CFP認定者
- 1級ファイナンシャルプランニング技能士
- 消費生活専門相談員資格
- CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
- 2020.12.24
- 税金
コロナで中止になったチケット代が「寄附金控除」の対象に
気づけば、今年もあとわずかとなりました。例年、この時期になると、確定申告のネタが増えてきますが、ひとつ今年らしいトピックスをご紹介します。
それは、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)で中止になったイベント等のチケットの代金等が寄附金控除の対象になる(以下、チケット寄附金控除)というものです。
今年4月30日に成立した「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律」(令和2年法律第25号)等によって創設されました。
そもそも、「寄附金控除」とは、個人が国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対して特定寄附金を支出した場合、所得税や住民税の優遇を受けられる制度です。
今回、創設されたのは、コロナで中止になったイベント等のチケット代金等(上限年間20万円)を、所得税および住民税計算上の「寄附」とみなすというもの。すでに、払い戻しを受けていても、主催者に、その払戻分を寄附する旨を連絡し、その後、実際に寄附を行うことで対象となります。
対象になるイベント等は、以下の要件を全て満たす必要があります。
1. 2020(令和2)年2月1日~2021(令和3)年1月31日までに日本国内で開催または開催予定の不特定かつ多数の者を対象とする文化芸術・スポーツイベント
2. 政府の自粛要請を踏まえて中止・延期・規模の縮小が行われたイベント
3. 上記1および2に該当し,主催者が申請により文化庁又はスポーツ庁の指定を受けたイベント
文化庁のサイトで、指定イベントが確認できます。詳細はこちらをご参照ください。
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/sonota_oshirase/covid19_info/donate.html
さて、この制度を利用するにあたって、おもな注意点が2つあります。
まず1つは、「所得控除」と「税額控除」のいずれを選択するかという点です。
以下は、国税庁のHPから引用した、寄付金控除の計算方法です(下線部分は筆者編集)。
(1)寄附金控除(所得控除)
個人の方が、義援金を寄附した場合には、その義援金が「特定寄附金」に該当するものであれば、寄附金控除の対象となります。
寄附金控除の額は、次の算式によって計算します。
・その年中に支出した特定寄附金の額の合計額-2千円=寄附金控除額
(注) 特定寄附金の額の合計額は、所得金額の40%相当額が上限です。
(2)寄附金特別控除(税額控除)
個人の方が、認定NPO法人等又は一定の要件を満たす公益社団法人・公益財団法人に対する寄附金を支出した場合には、上記(1)の寄附金控除に代えて、寄附金特別控除の適用を受けることができます。
寄附金特別控除の額は、次の算式によって計算します。
・(その年中に支出した認定NPO法人等に対する寄附金の額の合計額-2千円)×40%=認定NPO法人等寄附金控除額
・(その年中に支出した公益社団法人等に対する寄附金の額の合計額-2千円)×40%=公益社団法人等寄附金控除額
(注)上記寄附金の額及びその他の特定寄附金の額の合計金額は、所得金額の40%相当額が上限です。
また、上記寄附金特別控除の合計額は、その年分の所得税額の25%相当額が上限です。
※引用:国税庁「寄付金控除の額について」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/saigai/h30/0018008-048/013.htm
きっと、これだけでは「よくわからない⁉」という人がほとんどですよね?
ポイントを解説すると、まず(1)について、控除対象は「特定寄附金」に限定され、すべての寄附が対象になるわけではないという点です。
なお、特定寄附金に該当するものは、寄附金の受領証(領収書)に記載されているのが一般的ですが、不明な場合には寄附先に確認すると良いでしょう。
続いて(2)について、特定寄附金のうち認定NPO法人や政党等に対する寄附金など一定のものは、その年分の所得税額の25%相当額を限度として「所得控除」ではなく「税額控除」を選択できるという点です。
所得控除と税額控除は、名前こそ似ていますが、まったく異なります。
ものすごく簡潔に言うと、前者は、税金を計算する元となる課税所得を減らしてくれるもの。後者は、計算された税額自体を減らしてくれるものです。
どちらが有利かは、所得金額や適用される所得税率(5%~45%)などで異なりますので、事前に試算してみると良いでしょう。
ただ、一般的に、年収1,000万円超など高所得者は所得控除、年収1,000万円以下のそれ以外の人は税額控除の方が有利だと言われています。
注意点の2つ目は、「ふるさと納税」と併用する場合です。
寄附金控除は、チケット代やふるさと納税、それ以外の寄附などを含めた年間の寄附総額が所得金額の40%(住民税30%)まで認められます(チケット代の種類によっては、住民税の控除の対象とならない場合もあり)。
これを超えない限り、ふるさと納税の実質2,000円の自己負担でおトクに地方の特産品がもらえるといった上限額に影響はありません。
例えば、ざっくり試算すると、年収600万円の専業主婦ファミリー(高校生の子ども1人)の場合のふるさと納税の上限額は57,000円。
それに対して、年収600万円の寄附金控除の上限は、160万円(年収600万円から概算で所得控除200万円を差し引いた総所得金額400万円×40%)となっています。
要するに、寄附金控除の上限額よりもふるさと納税の上限額の方がずっと低く、現実的に考えて、上限額は変わらないということです。
それよりも、ふるさと納税と併用する場合、注意すべきは、チケット寄附金控除を受けるために確定申告が必要であるという点です。ふるさと納税で確定申告不要の「ワンストップ特例」を利用しようと思っている人は、翌年1月10日までに寄附先に申請しても意味がなくなります。
ちなみに、チケット寄附金控除でおトクになる額は、最大でもチケット代の半分程度という感じでしょう。とにかく、数少ない税制優遇の恩恵を受けるためには、多少の手間ヒマを掛ける必要があるということかもしれませんね。
以下も、チケット寄附金控除の流れがわかりやすく説明してあります。ご参考までに。
文化庁「チケットを払い戻さず「寄附」することにより税優遇を受けられる制度について」
https://www.mext.go.jp/sports/content/20200430-spt_sseisaku01-000006401_3.pdf