コラムColumn
執筆者プロフィール
- ファイナンシャル・ジャーナリスト
- LIFE MAP,LLC代表
- 2020.03.19
- 投資
積み立て投資は長期で続けてこそ
2018年につみたてNISA(積み立て型の少額投資非課税制度)がスタートし、昨年(2019年)には金融庁の報告書騒動などもあり、投資信託の積み立て投資を始める人もふえてきました。企業型確定拠出年金やiDeCo(イデコ=個人型確定拠出年金)を利用して、投信の積み立てを行っている人もいるでしょう。
積み立て投資は長期でコツコツ資産形成を行う方法ですが、株式市場は好調なときばかりではありません。今年3月には新型コロナウイルスの実体経済への影響が顕在化し、日本も、海外も株式市場は大混乱。ダウ工業株30種平均が2000ドル以上下落する日もありました。OECD(経済協力開発機構)は各国の経済成長率を下方修正し、今後も相場は不透明な状況が続きそうです。ここ数年で積み立て投資を始めた人にとっては、初めての経験かもしれません。過去には株式市場の大幅下落を受けて、せっかく始めたのに「積み立てをやめてしまう(積み立ての設定を解除)」「積み立ててきた投信を解約してしまう」人もいました。
これは非常にもったいない話です。株価が下がったからといって積み立てをやめたり、解約したりしていては長期で資産をふやしていくことは叶いません。
全国の企業型確定拠出年金加入者の通算運用利回り(年率)は2.8%ですが、一部運用利回りがマイナスという人もいます(「平成29年決算 企業年金実態調査」2019年2月4日企業年金連合会)。なぜマイナスなのかといえば、投資信託で運用をしてきたのに、基準価額が下がり評価損益がマイナスの時に、投信を解約して定期預金に預け替えを行ったから。その後の上昇の恩恵を受けることなく、いわば、損を確定させてしまったというわけです。
では、どうしたら積み立て投資を続けられるのでしょうか。
1つは「ルール化する」ことです。
感情で判断すると非合理的な行動をとってしまいがちです。きちんとルールを決めて、それを淡々と実行するのがいちばんです。以前、『臆病な人でもうまくいく投資法-お金の悩みから解放された11人の投信投資家の話』(プレジデント社)という本を書きました。投資が趣味でも、仕事でもない、ふつうのビジネスパーソンがどのようなきっかけで投資を始めたか、日常生活の中でどのように投資と付き合っているか――などを取材してまとめたものです。
その中で何人かが実践していたのが「投資方針書」を作成すること。投資方針書というのは、投資の目的や投資方針、具体的な行動指針などを考えて、自分なりにまとめたものです。不安になったときに読み返すことで感情的な判断をしなくてすむ、冷静になれるという効果があります。『敗者のゲーム』の著者であるチャールズ・エリスさんや投資教育家の岡本和久さんもこうした方法をすすめています。
2つ目は無理のない金額で始めることです。
無理のない、というのは経済的にも、精神的にも無理のない金額のこと。相場が急落したときにこわくなってやめてしまうという人もいますが、一方で生活資金などが必要になり、大きな含み損を抱えている時に投信を解約せざるをえないというケースもあります。
株式市場が好調なときには、積み立て投資に回す金額をふやしがちですが、○○ショックが起きる状況下では雇用が不安定になったり、自営業の場合売り上げが減ったりということもありえます(iDeCoは課税所得を下げる効果はありますが、資金繰りが厳しくなっても原則60歳になるまで引き出すことはできません。例えば、自営業の人は万一のときに無担保で借り入れが可能な小規模企業共済を優先するという選択肢もあるでしょう)。
将来に振り向けるお金と、いま手元においておくお金のバランスが大事です。この機会に、我が家の資産と負債、収入と支出・収支などを整理することをおすすめします。
3つ目は価格ではなく、価値に目を向けることです。
例えば、株式に投資する投信を保有している場合、皆さんは投信の基準価額(投信の値段)ではなく、実体のある会社にお金を回しているわけです。会社が必要とされる商品やサービスを提供できれば、売り上げはあがり、利益もふえていくはずです。その結果、企業価値が上がると価格にも反映されていきます(それには時間はかかることもあります)。そうした循環を信じられるかどうか、です。価格だけに振り回されないようにしましょう。
淡々と「続ける」ことの大切さ
2013年6月に、ポートフォリオ理論の第一人者である、イエール大学経営大学院教授ロジャー・イボットソン氏にインタビューをする機会がありました。そのときに、イボットソン氏が「株は長期的にみたら、年率4~5%の期待リターンがある。しかし、どの年、どの月に、(そのリターンを)投資家が享受できるかは分からない。だからこそ、長期的な投資をすることに意味がある」と語っていたのが印象に残っています。
リーマンショックから5年、10年と経ったときに、笑顔でいられたのは一時的な下げに動揺せずに積み立て投資を続けた人たちでした。「一時的な下げに慌てずに、保有し続けることで、そこそこのリターンを生み出すことはできる」「とはいえ、分散投資をしていても、一時的に大きく下落することはある。短期ではなく、長期的な軸で考える」ということを再確認した上で、「続ける」という選択をしてほしいと思います。
そのためにも、仮に半分になっても持ち続けたいと思える投資信託(個別株やETF=上場投資信託を含む)をしっかり選んでおくことが大切です。しばらくは不安定な相場が続くかもしれませんが、コロナショックから5年、10年経ったときに、笑顔でいられる人になりたいですね。