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コラムColumn

  • 2019.11.14
  • 年金
  • 谷内 陽一

「グローバル年金指数ランキング」にだまされるな!

■日本の年金制度は世界的に見劣りしている!?
2019年10月21日、外資系コンサルティング会社のマーサー社とオーストラリアのモナッシュ金融研究センター(MCFS)は、「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数」の2019年ランキングを発表しました。オランダが2年連続で首位を堅持している一方、日本は37ヵ国中31位にとどまっています。このランキングでは、日本は毎年下位に低迷しているため、毎年結果が公表されるたびに「日本の年金制度は欠陥だらけ」「新興国よりも下位だなんて…」といった批判が幅を利かせているのが現状です。

マーサー「グローバル年金指数ランキング」(2019年度)を発表
https://www.mercer.co.jp/newsroom/2019-global-pension-index.html

■評価の項目・基準に異議あり!
このランキングでは、対象国の年金制度を、十分性(Adequacy)、持続性(Sustainability)、健全性(Integrity)の3つの指標で評価しています。しかし、各国の社会・経済情勢や制度創設の歴史的経緯を無視して各国の年金制度を比較することは非常に難しく、中には評価項目として疑問符が付くものも散見されます。

(1) 十分性(Adequacy)
十分性とは、年金給付をはじめとした老後所得の手厚さを示す指標で、給付水準(所得代替率)のほか、家計貯蓄率、私的年金への税制優遇措置、持ち家率などが評価されます。
給付水準が手厚いほど高評価というのは、一見すると真っ当に見えますが、保険料や掛金とのバランスを勘案しないと意味がありません。また、家計貯蓄率や持ち家率の高さが評価されるというのは、年金以外の方法でも老後に備えるという点では望ましい一方で、これが果たして年金制度の評価なのかは疑問です。

(2) 持続性(Sustainability)
持続性とは、年金給付が継続的にもらえるかどうかを示す指標で、私的年金のカバレッジ(適用対象範囲)、年金資産の対GDP比率、支給開始年齢と平均余命との差、労働力人口比率、政府債務比率、経済成長率などが評価されます。
この評価項目を見る限り、日本のように少子高齢化が急速に進展していてかつ政府債務も莫大な国では、このランキングで上位につけているオランダやデンマークの年金制度をそっくりそのまま輸入したところで、順位を引き上げるのはどだい無理な話であることがわかります。

(3) 健全性(Integrity)
健全性とは、民間の私的年金が健全に運営されるための規制、ガバナンス、情報開示等について評価する項目であり、じつは公的年金は対象とされていません。このランキングは、項目によって評価対象が公的年金なのか私的年金なのかがまちまちで一貫していません。

■年金制度を必要としない国ほど順位が高くなる矛盾
上記の評価項目を踏まえると、このランキングの順位を引き上げたいのであれば、以下の施策を実施すべきとの結論に達します。
・給付水準の引上げ
・家計貯蓄の向上
・持ち家率の向上
・少子高齢化の解消
・政府の借金をチャラにする
・年金の受給開始年齢をなるべく遅くする
・年金受給期間をなるべく短くする     など

しかし、給付の引上げには負担(保険料・掛金)の引上げがつきものですし、受給開始年齢にしても、例えば90歳支給開始にすれば対象者が減るぶん支出は抑えられるでしょうが、それが年金制度として意味のある改正だとは到底思えません。例えるなら、プロ野球チームの実力を測るのに、チーム打率やチーム防御率ではなく、「選手の平均年齢」や「親会社の資金力」を指標として重要視するようなチグハグさが随所に散見されます。

そして、このランキングの最大の問題点は、「年金を必要としない若い国ほど順位が高くなる」ことです。そもそも年金制度は、いずれ到来する高齢化社会に備えるために設立されるものですが、このランキングでは、年金制度が役割を発揮する時期(=少子高齢化が進展する段階)が近づくに連れて、年金制度の持続可能性が低いと評価される傾向にあります。例えるなら、夢のマイホームを買うため一生懸命貯蓄してきたのに、いざ購入のために貯蓄を取り崩そうとすると「貯蓄残高が減るのは問題だ!」と批判するようなものです。

■学術調査ではなく「分析コラム」として割り切るべし
とはいえ、海外の研究機関が発表したというだけで、マスメディアはろくに内容を精査せず見出しだけ大々的に報道し、そうした報道を引き合いに出して「日本の年金制度はけしからん!」と批判する輩が雨後の竹の子の如く増殖するのは、困ったものです。

最後にネタばらしをすると、このランキングでは、年金制度を評価するための指標のほとんどをOECD(経済協力開発機構)の各種統計に依存しています。つまり、このランキングの本質は、各国の状況を精緻に調査した「学術調査」ではなく、国際統計から数字を大雑把に拾って整理した「分析コラム」だと筆者は考えます。なので、「好きな芸能人ランキング」「ベストジーニスト」「●●番付」などと同様、グローバル年金指数ランキングも「おっ今年も馬鹿なことやってるな~」と斜め読みしながらほくそ笑むのが、粋な大人の流儀というものでしょう。

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