コラムColumn
執筆者プロフィール
- CFP ファイナンシャル・プランナー
- 生活経済研究所長野 事務局長
- 日本FP協会静岡支部 支部長
- 東海ブロック 副ブロック長
- 2026.03.26
- 住宅
「残クレ住宅ローンはアリか!?ナシか!?」
住宅ローンの新しい仕組みに「残価設定型住宅ローン」があります。名前の「残価設定」という文字を見て、自動車の「残価設定クレジット(残クレ)」を思い浮かべた方も多いでしょう。
実際、この住宅ローンは自動車の残クレと似た仕組みを持ち、「月々の返済額を抑えやすい」という理由で注目され始めています。しかし、その構造を分解してみると、従来の住宅ローンとは大きく異なる特徴を持っており、仕組みを正しく理解しないまま利用するのは非常に危険です。
自動車購入における残クレの仕組み
自動車の残クレでは、契約時に将来の車の価値(残価)を設定します。例えば車両価格300万円(頭金ゼロ)、残価100万円とした場合、元金返済の対象は200万円となります(※利息は300万円に対して発生)。
そのため、月々の支払いは通常の自動車ローンより軽くなり、契約終了時には次の選択肢があります。
① 車を返却
② 残価を支払い乗り続ける(分割・一括)
③ 新しい車へ乗り換える
自動車は数年単位で買い替えることが一般的であり、この仕組みには一定の合理性があります。
住宅には適さない理由
一方で住宅は自動車とは性格が大きく異なります。多くの世帯では、一度購入した住宅に長期間住み続けます。数年ごとに買い替える前提の資産ではありません。
つまり、自動車では合理的な仕組みでも、そのまま住宅に当てはめると無理が生じます。
残クレ住宅ローンは「二階建てローン」
残クレ住宅ローンの本質は、「住宅ローン」と「リバースモーゲージ」を組み合わせた構造にあります。イメージとしては二階建てのローンです。
2階:通常の住宅ローン(元金+利息を返済)
1階:リバースモーゲージ(元金は返済せず利息のみ支払い)
つまり住宅価格は住宅ローン部分+残価部分に分かれ、残価部分がリバースモーゲージとなり、「元金は返済せず、利息だけを支払い、最終的に自宅の売却などで返済する仕組み」 がそのまま適用されます。
具体例で見る構造
住宅価格4,000万円、残価2,000万円と設定した場合
2階:住宅ローン部分2,000万円(元金+利息返済)
1階:残価部分(リバースモーゲージ)2,000万円(利息のみ支払い)
となります。
この結果、毎月の返済額は軽くなりますが、残価部分の2,000万円は元金が一切減らず、住宅を手放すまで利息を払い続けることになります。
利息負担が膨らむ仕組み
住宅ローン金利は2026年3月時点で固定金利でも約2%前後です。一方、リバースモーゲージは3〜4%程度の商品が多く、残価部分は高い金利で借りている状態になります。
例えば、残価2,000万円・金利3%の場合、年間利息:60万円(月額約5万円)を長期間支払うことになります。
・10年:600万円
・20年:1,200万円
・50年:3,000万円
元金が一切減らないため、生きている限り利息を払い続ける構造です。長生きするほど負担が増える、いわゆる「長生きリスク」がそのまま家計に直結します。
結果として、通常の住宅ローンより総支払額が大きくなるケースも十分に想定されます。
また、残クレ住宅ローンでは、残価設定を前提とした設計のため、住宅ローン部分の繰り上げ返済が制限される商品もあり、商品によって条件は異なりますが、通常の住宅ローンと比べて返済の自由度は低くなります。
メリットとデメリット
◆デメリット
・残価部分の元金が減らない
・高い金利で借りる部分がある
・利息負担が長期化する
・将来の住宅価格に依存する
・総支払額が増える可能性
・メンテナンス費用がかかる
・返済の自由度が低い
つまり、毎月の負担を軽くする代わりに、将来へ負担を先送りする構造です。
◆メリット
・毎月返済額を抑えやすい
将来の住み替えや売却を前提としている場合には一定の合理性がありますが、どちらかといえば「不動産売買の上級者向けの商品」といえるでしょう。
最も重要な判断基準
住宅ローンは、家計と人生設計を大きく左右する契約です。特に「月々の支払いが軽くなる」という理由だけで選択すると、将来の家計に大きな負担を残す可能性があります。
重要なのは「今の返済額」ではなく、「生涯でいくら支払うのか」という視点です。仕組みを正しく理解し、自分のライフプランに本当に適しているのかを慎重に判断することが求められます。

