コラムColumn
執筆者プロフィール
- 名古屋経済大学 経済学部 教授
- 社会保険労務士
- 証券アナリスト(CMA)
- 2026.03.12
- 年金
年金資産運用はプロレスの如し
2026年2月に開催されたミラノ・コルティナ五輪では、多くの日本人選手が活躍したのは記憶に新しいところです。さて、確定給付企業年金や確定拠出年金における資産運用のあり方をスポーツに例えるとしたら、皆さんはどんな競技を連想するでしょうか。今回は、年金資産運用の極意をプロレス(プロフェッショナルレスリング:Professional Wrestling)になぞらえて解説します。
■プロレスの醍醐味は技を「受ける」「耐える」こと
プロレスはレスリングの一種であり格闘技に分類されるスポーツですが、純粋な競技というよりは興行性やエンターテインメント性に重点が置かれているのが特徴です。四角いリングの中で、打撃技、関節技、絞め技、投げ技、浴びせ技、フォール技、飛び技、時には凶器などを用いた反則技が飛び交います。
ところで、他の格闘技にはないプロレスの最大の魅力とは何でしょうか。一般的には「力比べ」や「大技の応酬」など、迫力満点のシーンを連想する方が多いでしょう。しかし、それは魅力のほんの一部に過ぎません。プロレスの最大の醍醐味は、相手の攻撃を「受ける」「耐える」ことにあると筆者は考えます。他の格闘技では、相手の技を喰らわないように「よける」「かわす」のが通例です。例えばボクシングでは、相手のパンチを一発も受けずに自分だけがパンチを当てる「打たれずに打つ」が理想像とされています。また柔道では、相手に対して積極的に攻撃を仕掛けないと審判から「指導」を言い渡されることもあります。
これに対しプロレスは、試合が進むにつれて得意技や必殺技がどんどん披露されますが、よくよく見ると、技を受ける選手はいずれも相手の攻撃を原則避けることなく、交互に技を繰り出したり受けたりしています。プロレスでは、相手の攻撃は正面から「受ける」のが美学とされています。攻撃を避けずに正面から受けてみせることで相手の大技が華麗に決まりますし、選手同士が交互に大技を決めるのを観て観客は熱狂します。また、飛び技などでは、相手が技を受けてくれることは攻撃する側の選手の安全確保にもなります。
プロレスの試合において、試合中にファンが最も大きな歓声を送るのは、大技を決められてフォールされた選手が3カウントの直前でフォールを跳ね返す瞬間です。これは、プロレスファンが派手な大技を決めた選手だけでなく、その大技に耐えた選手の双方を称えていることの証左と言えます。
■長期・積立・分散投資は「受け」の手法
しかし、相手の攻撃を正面から受けることは、一見簡単なようでいて、常に怪我と隣り合わせの危険な行為です。だからプロレスラーは、相手の攻撃を受けてもびくともしない強靭な身体を作るため、日々激しいトレーニングをこなします。じつは、このプロセスは年金資産運用にも大いに通じるところがあります。
年金資産運用の極意として、「長期投資」「積立投資」「分散投資」の3つが挙げられます。短期の価格変動に一喜一憂しない「長期投資」、掛金を積み立てて投資タイミングの分散を図る「積立投資」、複数の資産・銘柄を幅広く保有する「分散投資」は、金融・資本市場が不確実(=予測不可能)であり、その影響を最小限に留めるために編み出された手法です。市場の短期的な高騰あるいは急落を受けて売買を繰り返す行為は、相手の攻撃を「よける」「かわす」ようなもので、労多くして実りが少ないうえ観戦してても面白味に欠けます。マーケットの変動に一喜一憂するのではなく、政策的資産構成割合(基本ポートフォリオ)を一旦策定したら長期的に維持するという年金資産運用の基本行動は、相手の攻撃を正面から受けて耐え忍ぶ(=短期的な売買は行わない)という点では、地味ですがじつにプロレス的な手法だと言えます。
私たち一般人は、ジャイアント馬場のような巨大な体躯も、アントニオ猪木のような派手な必殺技(延髄斬り、卍固めetc)も持ち合わせていません。しかし、年金資産運用で求められるのは、華麗な大技(=将来の予測・頻繁な売買etc)ではなく、マーケットの変動という波状攻撃を凌ぐための「受け」の手法(=長期・積立・分散投資)だと筆者は考えます。