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繰上げVS繰下げ、結局どっち?「額面」じゃなく「手取り」で比較


公的年金は何歳から受け取るのがいいのか。額面だけでなく、手取りベースで考えてみることも重要です。あらためて、繰上げ・繰下げのメリット・デメリットとともに考えてみましょう。

■繰上げ受給の仕組みとメリット・デメリット

繰上げ受給とは、65歳より前に年金を受け取り始めることです。受給開始を1ヵ月早めるごとに0.4%年金額が減額され、減った年金額が一生続くことになります。例えば、60歳まで繰上げると、65歳に比べて24%減額された年金が一生続きます。61歳だと19.2%減、62歳だと14.4%減となります。

ちなみに、受給開始を65歳からにした場合と受取合計額が逆転するポイント(損益分岐点)は以下のとおりです。この損益分岐点よりも長生きしてしまうと受取合計額で損をすることになります。

60歳受取開始(-24.0%) ― 80歳8ヵ月
61歳受取開始(-19.2%) ― 81歳8ヵ月
62歳受取開始(-14.4%) ― 82歳8ヵ月
63歳受取開始(-9.6%) ―  83歳8ヵ月
64歳受取開始(-4.8%) ―  84歳8ヵ月

【繰上げ受給のメリット】
60代前半から現金収入を確保でき、退職直後の生活費の不安を減らせます。また、受給開始が早い分、損益分岐点より前に亡くなった場合は受取合計額が大きくなります。それから、60代の元気な時期に使えるお金が増え、旅行や学び直しなどに回しやすいとも言えるでしょう。税制面では、65歳未満の公的年金等控除(最低60万円)を使える点もメリットと言えます。

【繰上げ受給のデメリット】
減額された年金が一生続くため、損益分岐点を超えて長生きすると、繰上げしなかった場合と比べて受取合計額が少なくなります。また、60代前半の給与収入などの所得が多いと、繰上げ受給した年金額にかかる税負担も重くなる可能性があります。

■繰下げ受給の仕組みとメリット・デメリット

繰下げ受給とは、66歳以降に受給開始を遅らせることです。1ヵ月遅らせるごとに0.7%年金額が増額され、増えた年金額が一生続きます。例えば、70歳まで繰下げると、65歳に比べて42%増、75歳まで繰下げると84%増になります。

ちなみに、受給開始を65歳からにした場合と受取合計額が逆転するポイント(損益分岐点)は以下のとおりです。この損益分岐点よりも早く亡くなると受取合計額で損をすることになります。

66歳受取開始(+8.4%) ―  77歳10ヵ月
67歳受取開始(+16.8%) ― 78歳10ヵ月
68歳受取開始(+25.2%) ― 79歳10ヵ月
69歳受取開始(+33.6%) ― 80歳10ヵ月
70歳受取開始(+42.0%) ― 81歳10ヵ月
75歳受取開始(+84.0%) ― 86歳10ヵ月

【繰下げ受給のメリット】
受給開始後の年金額が増えるため、長生きに備えられる安心感は大きいでしょう。また、実際に損益分岐点を超えて長生きした場合には受取合計額も多くなります。それから、医療や介護などで老後の支出が増えたときに、増額した年金が家計の下支えになりやすい点もメリットと言えます。

【繰下げ受給のデメリット】
受給を遅らせた期間は年金収入がないため、その間の生活費を別の資金で賄う必要があります。また、損益分岐点より前に亡くなった場合は、受取合計額でも不利になります。それから、年金額が増えると、その分だけ税金や社会保険料の負担が重くなるため、額面に対する手取り額の割合が繰上げ受給に比べて少なくなる可能性があります。

■税金や社会保険料を引いた手取り額で見ることが重要

年金の比較で見落とされがちなのが、年金の額面金額と手取り額は一致しないという点です。ズレを生む主な要素は次のとおり。

・税金(所得税・住民税)
年金は「雑所得」として総合課税扱いになります。公的年金等控除があるものの、受給額や他の所得状況によって税負担が変わります。

・社会保険料(健康保険、介護保険)
60歳以降も基本的には収入に応じた社会保険料(健康保険料や介護保険料)の負担が続きます。そして、75歳以降は後期高齢者医療制度に移りますが、基本的に所得に応じた保険料負担となるのは同様です。

例えば、厚生労働省が公表している令和7年度のモデル年金額(厚生年金中心の男性の場合)月額173,457円(年額約208万円)で概算の手取り額を計算してみると以下のとおりでした(社会保険料は東京都練馬区の場合で試算)。税金や社会保険料の関係で、65歳や75歳で手取り額が変化することがわかります。

60歳受取開始            60歳    65歳時   70歳時    75歳時
額面約158万円(24%減)  手取り 約138万円  約142万円  約142万円  約144万円

65歳受取開始                  65歳時    70歳時   75歳時
額面約208万円(±0%)   手取り        約181万円  約181万円  約185万円

70歳受取開始                         70歳時    75歳時
額面約296万円(42%増)  手取り               約245万円  約250万円

ちなみに、年金の額面金額に対する手取り額の割合も、70歳時点の手取り額で比較すると、60歳開始が90%、65歳開始が87%、70歳開始が83%と、繰下げ受給で年金額が増えた分だけ税金と社会保険料の負担が重くなっていることがわかります。

■手取り額でみた損益分岐点は2歳ほど後ろにズレる

さらに、令和7年度のモデル年金額(厚生年金中心の男性の場合)月額173,457円(年額約208万円)をもとにした手取り額で損益分岐点を計算してみると…

<繰上げ受給>
60歳受取開始 ― 82歳6ヵ月
61歳受取開始 ― 83歳10ヵ月
62歳受取開始 ― 85歳2ヵ月
63歳受取開始 ― 86歳6ヵ月
64歳受取開始 ― 87歳6ヵ月

<繰下げ受給>
66歳受取開始 ― 80歳0ヵ月
67歳受取開始 ― 81歳10ヵ月
68歳受取開始 ― 82歳6ヵ月
69歳受取開始 ― 83歳4ヵ月
70歳受取開始 ― 84歳2ヵ月
75歳受取開始 ― 88歳8ヵ月

総じて2~3歳程度、損益分岐点が後ろにズレることがわかります。このズレは、年金の額面金額が多くなるほど大きくなると考えられます。繰下げ受給による年金の増額は、長生きした場合の安心材料として非常に有効ではありますが、必ずしも有利になるかどうかはわかりません。

また、今まさに80代半ばで施設暮らしをしている父親を見ていると、仮にたくさんのお金を持っていたとしても、使い道がない状態では無価値も同然です。お金の価値を十分に活かせるうちに有効に使うことも重要でしょう。そのために資産形成をしてきたはずなのですから。

退職金・年金の出口戦略は、単に有利な受け取り方を考えるだけでなく、満足度の高い使い方を考えることも重要だと言えるでしょう。

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