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執筆者プロフィール
- CFPファイナンシャル・プランナー
- 生活経済研究所長野 主任研究員
- 2025.09.11
- 税金
任意継続か国保か、それとも扶養か?~退職後の健康保険~
会社を退職すると、それまで加入していた健康保険をそのまま継続することはできません。特に中途退職の場合、再就職の有無や時期によって選べる制度が変わります。健康保険の選択は、日常の医療費だけでなく将来のライフプランにも影響しますので、早めに正しい手続きを理解しておくことが大切です。
退職後の健康保険には、大きく分けて次の4つの選択肢があります。
【1】 転職先の健康保険に加入する
【2】 任意継続被保険者制度を利用する
【3】 国民健康保険に加入する
【4】 家族の被扶養者となる
それぞれの要件と特徴を見ていきましょう。
【1】 転職先の健康保険に加入する
最もシンプルなのが、再就職先の健康保険に加入するケースです。会社員や公務員として働く場合には、就職と同時に自動的にその会社の健康保険組合や協会けんぽに加入することになります。
この場合、手続きは勤務先が行ってくれるため、本人の負担は少なく済みます。原則として「雇用契約が成立した日」から保険の対象となるため、空白期間なく保障が続くのがメリットです。中途退職後にすぐ転職先が決まっている人は、この選択肢が基本となります。
【2】 任意継続被保険者になる
再就職先がすぐに決まらない(または再就職しない)場合で、国民健康保険よりも保険料が安くなる可能性がある場合には、退職した会社の健康保険を「任意継続」として最長2年間引き続き利用できます。ただし、任意継続にはいくつかの要件があります。
<任意継続の要件>
・ 退職前に継続して2ヶ月以上健康保険に加入していたこと
・ 退職日の翌日から20日以内に申請すること
・ 保険料を滞納すると資格を失う(原則1回でも失効)
特に「申請期限」と「保険料の支払い」は非常に厳格です。申請期限は健康保険法で定められており、1日でも過ぎれば加入できません。救済措置はなく、期限を守れなかった場合は国民健康保険や家族の扶養に入るしかなくなります。
また、保険料の滞納も極めて厳しく扱われます。原則として1回でも滞納すれば資格を失います。健康保険組合によっては、やむを得ない事情がある場合に限り、初回のみ例外的に猶予されるケースがありますが、2回目以降は絶対に認められません。そのため、口座振替を利用し、残高を確実に確保するなど、支払い体制を整えることが必須です。
【3】 国民健康保険に加入する
自営業者やフリーランスと同じ立場で、各市区町村が運営する国民健康保険に加入することもできます。任意継続に比べて保険料が高いと思われがちですが、退職後に収入が減った場合には国民健康保険のほうが安くなることがあります。
国民健康保険の保険料は、市区町村ごとに計算方法が異なりますが、基本的には「前年の所得」に基づいて算定されます。つまり、退職直後は前年の給与所得をベースに保険料が決まるため、高額になることも少なくありません。
しかし、退職後1年以上が経過し、その間に収入がほとんどなければ、保険料は大きく下がります。このため、最初の1年は任意継続を選び、その後は国民健康保険に切り替えるという流れが合理的です。
【4】 家族の被扶養者になる
配偶者や親など家族が健康保険に加入している場合は、その扶養に入ることも可能です。保険料の追加負担はなく、家計にとっては最も有利な選択肢です。
ただし、被扶養者になるには次の要件があります。
<被扶養者になるための要件>
・ 年収が130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)
・ 被保険者の年収の2分の1未満であること
・ 一定の親族以外は同居が必要
同居要件は親族の範囲によって異なります。配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹は、同居していなくても仕送りなどで生計維持関係があれば認定されますが、それ以外の三親等内の親族(おじ・おば・甥・姪など)については同居が必要です。
■保険料はどう決まるのか?
(1)任意継続の場合
任意継続の保険料は、「退職時の標準報酬月額」を基準に計算されますが、「被保険者全体の平均標準報酬月額」を上限とする仕組みが設けられています。例えば、協会けんぽでは、令和7年度の平均標準報酬月額は32万円で、これが実質的な上限となっています。
<協会けんぽ・東京都の例(令和7年度)>
・ 40歳未満または65歳以上の場合 … 31,712円/月
・ 40歳以上65歳未満の場合(介護保険料を含む)… 36,800円/月
(2)国民健康保険の場合
国民健康保険の保険料は前年の所得に応じて計算されます。前年に給与収入480万円(給与所得約330万円)があった人の場合、東京都大田区で国保に加入すると年間約44万円(月額3.7万円程度 ※介護保険料を含む)になるケースが一般的です。
つまり、退職直後は前年所得が高く算定されるため、国保の保険料は重くのしかかります。ただし、翌年度以降に収入が大幅に減れば、保険料も大きく下がります。
非自発的失業(倒産・解雇・雇止め等)に該当する人には軽減特例があり、国保の計算上、前年の給与所得が30%として扱われます。例えば前年の給与所得が330万円であっても、計算上は99万円として扱われるため、月額1.3万円程度に軽減されます。
ただし、注意すべき点として、国民健康保険には「被扶養者」という概念がありません。そのため、家族構成によっては保険料総額が膨らむこともあります。例えば、世帯に扶養家族がいる場合には、配偶者や子どもなど一人ひとりが被保険者として加入し、それぞれの分の保険料を負担する必要があります。
■最適な選択肢は?
中途退職後の健康保険は、まず「転職先の健康保険に加入」が基本です。再就職がすぐに決まらない場合には、保険料を比較して決めます。
・ 退職直後(前年所得が高い)→ 「任意継続」の方が安くなるケースが多い
・ 退職から1年以上経過し収入減少 → 「国民健康保険」の方が安くなるケースが多い
・ 非自発的失業の場合 → 退職直後から「国民健康保険」の方が安くなるケースも多い
要件を満たせるなら「家族の扶養に入る」のが最も経済的です。ただし収入条件や同居要件は親族の範囲で異なるため注意が必要です。
退職後は「雇用保険の申請」や「企業年金の移換」など、やるべきことが山積みです。健康保険の手続きを後回しにすると無保険期間が生じる恐れもあるため、注意が必要です。スムーズな生活再出発のために、早めに保険の選択肢を整理し、自分にとって最も有利な制度を選びましょう。
