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資産形成の肝は種銭づくり


1.種銭がなければ話にならない
資産を増やすための運用を始める際、その元手となる軍資金を「種銭(たねせん)」といいます。具体的には、貯蓄のうち、投資に回せる余裕資金を指します。いまNISA制度は人気の高まりを見せるなか、「資産形成」と聞くと「運用」を想像する人が多く、運用利回りの高さばかりが注目されがちですが、そもそも種銭が小さければいくら運用利回りが高くても話になりません。

具体例として、種銭が50万円の場合、年利回り6%で運用できたとしても、1年後の収益は3万円に過ぎません。この程度であれば、運用しない人でも貯蓄を毎月2,500円増やすだけですぐに追いつけてしまいます。一方、種銭が2,000万円の場合、年利回り6%で運用できたとするならば、1年後の収益は120万円になります。ここまで大きくなれば、運用しない人は貯蓄を毎月10万円増やさなければ追いつけず、両者の差は決定的になります。

重要なポイントは、資産形成には順番があるということです。種銭がまだ小さい人は運用などには目もくれず、まずは種銭づくりに全エネルギーを投入する必要があります。

2.積立額と利回りの寄与度
資産形成において、積立額と運用利回りがどのように影響するか、具体例を通じて見てみましょう。

例1: 毎月5万円を年利回り6%で運用した場合、評価額が1,000万円になるまでに約11.5年かかります。評価額を4,000万円から5,000万円に増やすためには、わずか3年程度で到達します。つまり、元手が大きくなると、同じ金額を増やすために必要な期間が短くなることを示しています。

例2: 毎月5万円を年利回り0%で運用した場合、評価額が480万円になるまでに約8年かかります。年利回り6%で運用すると、同じ480万円に達するまでの期間は約6.5年となりますが、1.5年の短縮に過ぎません。このように、種銭が小さい場合、運用の効果は限定的です。

例3: 毎月1万円を年利回り6%で運用する場合と、毎月5万円を年利回り0%で運用する場合を比較すると、33.5年後でも毎月5万円を積み立てた方が優勢です。つまり、種銭が少ない場合、高い利回りでも積立額の多さには追いつかないことがわかります。

例4: 毎月9万円を年利回り0%で運用する場合、評価額が4,000万円になるまでに約37.5年かかります。年利回り6%で運用すると、この期間は約19.5年まで短縮されます。このように、種銭が少ないところからスタートしても、ハイペースで積み立てると運用の力がどれほど大きいかがわかってきます。

「年利回り6%で運用している」と言うと一般的に「すごい!」と思われがちです。しかし、実はその効果が劇的に発揮される時と、そうでない時があるということはあまり知られていません。種銭が大きいときは運用の効果が劇的に発揮されますが、種銭が小さいときはその効果が限定的である点が見逃されがちです。このため、資産形成の初期段階では、まず種銭を増やすことが重要です。

3.種銭づくりのための基本戦略
種銭づくりの基本戦略は貯蓄に尽きます。しかし、貯蓄が難しい人が多いのはなぜでしょうか。

① 貯められない人の行動パターン
収入 - 支出(パーキンソンの法則: 使える額まで膨張する)= 貯蓄(貯められない)

② 貯められる人の行動パターン
収入 - 貯蓄(とにかく貯める)= 支出(パーキンソンの法則: 使える額まで膨張する)

①貯められない人は、「収入」から「支出」を差し引くため、お金が手元に残らず「貯められない」ルーティンに陥ります。支出が使える額(=収入額)まで膨張するパーキンソンの法則に従うからです。一方、②貯められる人は、「収入」を得た瞬間に「貯蓄」し、残額だけで生活する(=支出)ルーティンに身を置きます。支出が使える額(収入-貯蓄)まで膨張するパーキンソンの法則を逆手にとって貯蓄するのです。

筆者の実例に触れましょう。私が企業の新入社員として働き始めたときの初任給は192,000円でした。上司のアドバイスで、毎月の給与から社内預金26,000円、一般財形40,000円、住宅財形50,000円、合計116,000円を天引き貯蓄しました。春と夏のボーナス時は5万円ずつ上乗せしたので、毎年140万円のペースです。当然、日々の生活で支出に回せるお金が少なく、非常に慎ましやかとなりました。遊ぶといえばアウトドアばかり。今となってはいい思い出ですが、振り返って考えてみると、私は上司のアドバイスによって②貯められる人の行動パターンに沿っていたからこそ種銭を大きくできたのだと納得しています。

また、翌年からは毎年250万円ずつ天引き貯蓄を増やしました。その後に知り合う配偶者も当時毎年200万円ずつ貯蓄しており、私たちの世帯の年間貯蓄ペースは450万円でした。私が30歳時点では貯蓄は3,000万円を超えており、地方都市でローンを組まずに住宅を現金取得するに至りました。その時点で貯蓄は激減しましたが、貯蓄のペースは衰えませんから、すぐに復活して34歳で起業に至りました。借り入れを起こさずに安定成長できたのは、すべて最初の天引き貯蓄のおかげです。

4.収入も増やせるように努めたい
貯蓄額を最大化するために、収入も真正面から増やしていきましょう。企業経営で重要視されるのは (1) 売上の増加と (2) 経費(特に固定費)の削減による利益の創出です。その積み上げが種銭になり、将来の (3) 投資運用に繋がっていきます。

これは個人の家計も全く同じです。世帯全体で (1) 収入の増加と (2) 支出の削減(固定費の最適化)を同時に取り組み、種銭を増やしていきます。そして (1) を継続する中で、種銭が増えたら (3) 投資運用に取り組む流れが大切です。

収入増加のための戦略として、昇格を積極的に目指し収入の実現につなげること、法整備されつつある副業によって収入を増やすチャンスを活用することが挙げられます。種銭が大きくなれば、運用の効果も大きくなり、資産形成のスピードが飛躍的に向上します。まずは種銭づくりに全力を尽くし、将来の資産形成に備えましょう。

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