コラムColumn
執筆者プロフィール
- CFP認定者
- 1級ファイナンシャルプランニング技能士
- 消費生活専門相談員資格
- CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
- 2023.09.07
- ライフプラン
医療費高騰!?2023年8月から公表「紹介受診重点医療機関」とは
筆者はFPとして、毎月、東京都内の病院で、がん患者さんの相談を受けています。先日も、1ヶ月ぶりに来院したところ、院内に「始まります。紹介受診重点医療機関」という厚生労働省のポスターが貼られているのに気づきました。
さて、みなさんは、この「紹介受診重点医療機関」という新しい制度をご存じでしょうか?これを知らずに、うっかり近所の大病院を受診してしまうと、思わぬ高額医療費にびっくりされるかもしれません。
今回のコラムでは、これが私たちの家計にどのような影響を与えるかご紹介したいと思います。
●「紹介受診重点医療機関」とは?
2023年8月1日、東京都保健医療局のサイトに報道発表資料として「新制度「紹介受診重点医療機関」一覧を公表」がアップされました。
わかりやすく説明されているので、以下一部を引用します(下線は筆者)。
『「紹介受診重点医療機関」とは、外来受診の際に、かかりつけ医等からの紹介状が必要となる医療機関で、より専門的な検査や治療を行います。かかりつけ医等と紹介受診重点医療機関の役割分担が明確になることで、医療機関の混雑緩和やスムーズな受診につながることが期待されます。令和5年8月1日から「紹介受診重点医療機関」となる医療機関が決定しましたので、一覧を公表します。受診の際の参考にしていただけますようお願いいたします。』
上記を補足すると、「紹介受診重点医療機関」という枠組みが設けられたのは、2022年度診療報酬改定においてです。
以前より、国は外来医療の機能分化を推進してきました。例えば、まず何らかの症状が出た場合は、近所のクリニックや診療所などかかりつけ医を受診してもらい、必要に応じて大病院等へという流れを促す観点から、大病院受診のハードルを上げるべく、紹介状なしで受診した患者さんから定額負担(いわゆる特別の料金(選定療養費))を徴収するよう一定の医療機関に求めてきたのです。
この制度が導入されたのは2016年で、定額負担の金額は、初診が5,000円以上(歯科は3000円以上)、再診は2,500円以上(同1,500円以上)。対象は、大学病院や国立病院機構など高度な医療を提供する「特定機能病院」と、一般病床が500床以上の「地域医療支援病院」となっていました。
さらに2018年には、適用される地域医療支援病院が400床以上、2020年4月からは200床以上へと対象範囲が徐々に拡大。そして、今回の2022年の診療報酬改定では、新しく「紹介受診重点医療機関(一般病床200床以上に限る)」が加わると同時に、定額負担の金額も以下の通り引き上げられたのです。
つまり、紹介状なしで大病院を受診した場合、初診・再診ともに、これまで以上に医療費負担が増えるわけですから要注意。また、初診・再診ともに、この額は医療機関が自由に金額を設定できるようになっており、これに別途消費税がかかります。ちなみに、冒頭の東京都内の病院では、「2023年10月2日以降、11,000円(現在8,300円)」と案内されていました。
[定額負担の額]
・初診:医科 7,000円以上、 歯科 5,000円以上
・再診:医科 3,000円以上、 歯科 1,900円以上
※出所:厚生労働省リーフレットより筆者が一部抜粋
●「保険給付範囲からの控除」が新しく適用
さらに、今回の改定で特徴的なのは、新しく「保険給付範囲からの控除」が適用される点です。これは、外来機能の明確化のための例外的・限定的な取扱いとして、‘あえて’紹介状なしで受診する患者等など定額負担を求める方に対して、一定の点数を保険料給付から控除するというもので、点数は以下の通りです。
[保険給付範囲からの控除額]
・初診:医科 200点、 歯科 200点
・再診:医科 50点、 歯科 40点
これが適用された場合、具体的に紹介状なしで大病院を受診した患者さんの医療費負担がどのようになるか見てみましょう。
・医科、医療費1万円、3割負担、初診の定額負担の額を5,000円から7,000円とする場合
[見直し前]
・①特別の料金:5,000円
・②患者負担分:医療費1万円×自己負担割合3割=3,000円
・患者負担の総額:①+②=8,000円
・医療機関の収入:特別の料金5,000円+医療費1万円(患者負担3,000円分+保険給付分7,000円)=1万5,000円
[見直し後]
・①特別の料金:7,000円(+2,000円)
・②患者負担分:医療費1万円―控除2,000円)×自己負担割合3割=2,400円
・患者負担の総額:①+②=9,400円
・医療機関の収入:特別の料金7,000円+医療費8,000円(患者負担2,400円分+保険給付分5,600円)=1万5,000円
※出所:厚生労働省リーフレットより筆者が一部抜粋の上編集
見直し前後では、患者負担の総額は8,000円から9,400円(+1,400円)になる一方、医療機関の収入は1万5,000円と変わりません。
これはいわば、大病院も、単に「特別の料金」をアップするだけでなく、もっと地域の医療機関と連携をして、機能分化の目的に寄与しなさいよ、というペナルティー的な位置づけで設けられたものです。
また、わざわざ、あえて紹介状なしで大病院を受診するわけですから、そのような患者に対しては保険給付を行う必要性も低く、増額分について「公的医療保険の負担を軽減する」という狙いもあります。
●今後ますます「かかりつけ医」選びが重要に!
もちろん、一定の条件を満たす患者さんは、紹介状なしでも定額負担を徴収しないことが明記されており、今回の改定では、これらの例外規定も見直されています。ただ、これからは「大病院で安心だから」「近所で以前から通っているから」などの理由で対象となっている医療機関を安易に受診するのは禁物。医療費を節約したいなら、受診する前に特別の料金の有無を確認する習慣をつけるようお勧めします。
なお、「紹介受診重点医療機関」については、当初2023年3月頃の公表が予定されていましたが延期され、東京都のように8月1日から徐々に公表されているようです。
そして、今後さらに重要になってくるのは「かかりつけ医」選びです。気軽に受診できて、親切かつ診察が丁寧、診断も的確。何より、異常があれば、すぐに大病院に紹介状を書いてくれる「患者離れ」の良さや、大病院からの逆紹介の対応等も大事なポイントです。
おそらく普段から意識されている人は少ないとは思いますが、病気になったときは、精神的にも身体的にも大変です。経済的な負担を軽減させたいなら一度見直してみてはいかがでしょうか?
<参考>
・厚生労働省「令和4年度診療報酬改定の概要外来Ⅰ」