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執筆者プロフィール
- CFPファイナンシャル・プランナー
- 生活経済研究所長野 主任研究員
- 2021.12.23
- 生命保険
外貨建て生命保険に加入すべきか
■近年増えている「外貨建て生命保険に関する相談」
最近、生命保険に関する相談で多いのが「外貨建て生命保険を勧められているのだが、加入したほうがいいか」というものです。中には加入後に「本当にこれでよかったのか」という確認の相談もあります。勧められた理由としては、「円建て生命保険よりも利回りが高く、投資効率が良い」というものが多いようです。
外貨建て生命保険についてネット検索すると、ブログ記事や動画サイトが数多くヒットします。外貨建て生命保険に関心を持っている方が多いということでしょう。
ブログ記事や動画サイトでは、外貨建て生命保険に批判的な内容が多いです。批判的な理由は「外貨建て生命保険はコストが高く、思った以上のリターンが出にくい」というもので、「インデックスファンドなどコストの低い投資信託で運用したほうがよい」と結論づけているものもあります。
■外貨建て生命保険と投資信託を比較しても意味がない
しかし、この主張には違和感を覚えます。外貨建て生命保険と投資信託という異質なものを比較しているからです。「リンゴとバナナは、どちらがおいしいか」といわれても、リンゴとバナナは違う果物なので、純粋に比較はできません。「リンゴは国産と外国産では、どちらがおいしいか」なら比較の意味があり、外貨建て生命保険を比較するなら、同じ生命保険である「円建て生命保険」と比較しなければなりません。
外貨建て生命保険とは、保険料の支払いや保険金の受け取りを外貨で行う生命保険で、外貨建てで取引を行うということを除けば、円建て生命保険と大きな違いはありません。
また、外貨建て生命保険は投資商品や貯蓄商品ではありません。あくまで万一の保障を目的とした保険商品であり、「解約すると解約返戻金が戻ってくるので、投資や貯蓄としての機能も兼ね備わっている」だけです。
■万一の保障が不要の場合は、そもそも生命保険は不要
生命保険ですから、所定の状態に該当すれば死亡保険金や高度障害保険金が支払われます。その保障にかかる費用は、契約者が保険料として保険会社に支払っており、保険料の全額が運用に回されるわけではありません。保障機能がない投資信託と比べて投資効率が悪いのは当然です。
もし、「万一の保障は不要」という方であれば、そもそも生命保険に加入する必要性はありません。「万一の保障を確保しつつ、将来の資金(老後資金や教育資金など)にも備えたい」のであれば、生命保険商品が向いています。
外貨建て生命保険への加入の是非で迷われている方は、「万一の保障が必要かどうか」、その部分が曖昧なのだと思います。
■比較対象は「円建て生命保険」
「万一の保障が必要」という方のみ、選択肢として「円建てか、外貨建てか」が問われます。ここもシンプルに「外貨建ての優位性」と「外貨建てのリスク」を秤にかけて、見合うかどうかを判断すればよいのです。外貨建ての優位性は「予定利率が高い」の1点のみですし、外貨建てのリスクは「為替リスク」の1点のみです。
予定利率とは、保険会社が契約者から受け取った保険料を運用する際に約束する利率のことで、予定利率が高いと保険会社に支払う保険料が安くなります。
■外貨建て保険の優位性は「予定利率が高いこと」
ご存じのように我が国では超低金利が長く続いています。例えば10年国債の年利回りを比較すると、日本は0.045%ですが、米国は1.407%です(2021年12月20日現在)。米国債券も決して高い利回りとはいえませんが、日本と比較すると約31倍です。日本債券で運用するより、米国債券で運用するほうが高い利回りが期待できるため、予定利率を高く設定できるというわけです。
現在の為替レート(1ドル=113円)で計算すると、ドル建て生命保険の保険料は、円建て生命保険の2~3割ほど低い水準で、1ドル=150円程度まで円安が進んでも、優位性が保たれます。
■外貨建て保険のリスクは「為替が変動すること」
次に為替リスクについてです。外貨建て生命保険では、死亡保険金や解約返戻金を円で受け取る場合には、為替相場によって円での受取額が変わります。
為替相場が1ドル=120円のように円安になると、円で受け取る死亡保険金や解約返戻金の額が増えるためメリットに見えますが、実は月払いや年払い契約の場合、円で支払う保険料が増えるので、メリットデメリットは帳消しです。逆に、1ドル=90円のように円高になると、円で受け取る死亡保険金や解約返戻金の額が下がりますが、円で支払う保険料も下がるので、やはりメリットデメリットは帳消しです。
つまり、為替によって契約者が大きな損害を受けるのは、「保険料払込期間中は円安で、死亡保険金・解約返戻金の受取時には急激な円高になる」というケースです。将来のことは誰にも予想できないので、最悪のシナリオが起こる可能性を否定できませんが、それ以外のケースでは為替リスクについてはあまりナーバスになる必要はありません。
■貯蓄機能も重視したいなら、返戻率をチェック
外貨建て生命保険を死亡保障だけでなく、貯蓄機能もあわせて検討したい場合は、「生命保険設計書」を良く読み取ることです。記載される項目は①払込保険料累計、②死亡保険金額、③解約返戻金額、④解約返戻金の返戻率(③÷①)です。この4つが経過年ごとに掲載されています。
貯蓄性能をみるときは④返戻率に注目します。自分が解約返戻金を受け取る可能性のある年齢(例えばお子様の大学進学、セカンドライフなど)の返戻率が100%を超えていれば、「③解約返戻金額が①払込保険料累計を(外貨ベース)で上回る」ことを意味します。この数字に魅力を感じれば加入を検討すればいいでしょう。株式投資信託等での運用経験がある方であれば、その数字に満足できないかもしれませんので、その場合は積極的に加入を検討しなくてもよいでしょう。
■「万一の保障が必要」なら、外貨建て生命保険への加入に問題なし
最後に繰り返しますが、外貨建て生命保険とは、保険料の支払いや保険金・解約返戻金などの受け取りを円ではなく、ドルなど外貨で行う生命保険です。仕組みとしては非常にシンプルで、生命保険としては円建ての生命保険と何ら変わるものではありません。物事をシンプルにとらえ、「予定利率が高いという優位性」と「為替リスク」を天秤にかけ、見合う水準であれば加入を検討すればよいのです。