コラムColumn
執筆者プロフィール
- CFP ファイナンシャル・プランナー
- 生活経済研究所長野 研究員
- NPO法人ら・し・さ 終活アドバイザー協会 副理事長
- 2021.12.09
- ライフプラン
高額介護サービス費の改正 ~高所得者の負担拡大 ~
人口が多い団塊世代が後期高齢者(75歳以上)になる「2025年」を前に、公的介護保険を持続可能な制度とするため、収入(所得)や資産が多い人には、それなりの負担を求める必要性が長年の検討課題となっています。
介護保険制度は、おおむね3年ごとに大きな制度見直しが行われていますが、今年度は見直しの年にあたるため、「高額介護サービス費」と「補足給付(食費と居住費の軽減制度)」が改正されました(2021年8月より適用)。今回は、高額介護サービス費の改正についてみていきましょう。
高額介護サービス費とは、1ヶ月間の介護サービスの自己負担額(1~3割負担部分)が、一定の金額(自己負担限度額)を超えたときに、超過分が(原則として申請により)払い戻される、という制度です。1ヶ月間の自己負担限度額は、所得区分によって決まっています(下記参照)。
今回の制度改正により、住民税課税世帯について所得区分が3段階に分類されました。すなわち、(1)課税所得380万円以上690万円未満、(2)課税所得690万円以上という区分が新たに創設されました。新たな所得区分に該当する人は、1ヶ月間の負担額が数万円単位で増えます。
【高額介護サービス費の自己負担限度額(月額)】
<所得区分> <世帯の限度額> <個人の限度額>
住民税課税世帯
課税所得690万円以上 140,100円 140,100円
課税所得380万円~690万円 93,000円 93,000円
課税所得380万円未満 44,400円 44,400円
住民税非課税世帯
年金等合計(※)が80万円超 24,600円 24,600円
年金等合計が80万円以下 24,600円 15,000円
生活保護受給者等 - 15,000円
所得区分が「住民税課税」で要介護5の人が在宅で介護サービスを利用しているケースで考えてみましょう。このとき、要介護5の人の居宅サービスの支給限度額は「362,170円(支給単位=10円の場合)」です。この限度額内であれば、1~3割(所得により異なる)の自己負担でサービスを利用できます。
たとえば300,000円のサービスを利用すると、自己負担額は1割の人30,000円、2割の人60,000円、3割の人90,000円となります。2割、3割の人は負担が大きいように感じますが、改正前は、どんなに所得が高くても、高額介護サービス費の適用により1ヶ月の上限44,400円を超えた分は払い戻されるため、最終的にはかなり負担が軽減されていたのです。
<改正前の最終的な自己負担>
2割の人:60,000円 → 44,400円
3割の人:90,000円 → 44,400円
しかし、改正後は、課税所得380万円以上の人の高額介護サービス費の上限が引き上げられています。課税所得380万円以上の人であれば自己負担割合は3割の枠組みに入ります。そのため、前述のケースでは以下のように自己負担額が増加します。
<改正後の最終的な自己負担>
2割の人:60,000円 → 44,400円
3割の人:90,000円 → 90,000円 (高額介護サービス費の限度額内)
つまり本ケースで3割の方は、1ヶ月の負担が45,600円(=90,000円-44,400円)増えるのです。
介護保険には様々な軽減制度があるものの、その適用条件はどんどん厳しくなっています。現在の制度がどうなっているか、こまめにチェックが必要です。