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児童手当と大学無償化~子3人世帯の子の収入による罠~


子どもが3人いれば大学はタダ、と安心していないでしょうか。実は、そうとは限りません。結論から申し上げると、お子さんのアルバイト年収(額面)が150万円〜160万円付近になると、親の税金が増えるだけでなく、大学無償化の支援まで縮小・喪失し、場合によっては世帯全体で年間百万円近い不利益を被ることもあります。

2024年10月に児童手当が拡充され、2025年4月からは大学無償化(高等教育の修学支援新制度)の対象が大幅に広がりました。どちらも所得制限の撤廃や多子世帯への優遇といった朗報として受け止められましたが、「うちは子どもが3人いるから、大学はタダになる」と安心しきってしまうと、思わぬ落とし穴にはまりかねません。

実はこの二つの制度は、見た目は似ていても「扶養の定義」と「子どもの収入の扱い方」がまったく違います。本コラムでは子ども3人世帯に絞って、児童手当が基準とする「生計維持」、大学無償化が基準とする「税法上の扶養」、親の税金に影響する「特定親族特別控除」という三つの扶養ルールと、そこから生じる年収150万円と年収160万円という二つの壁を整理します。

●生計維持の壁 児童手当は子の収入を問わない(1つ目の扶養ルール)
まずは児童手当です。2024年10月の改正で、高校生年代まで第3子以降に月額3万円が支給されるようになり、所得制限も撤廃されました。この制度の最大の特徴は「生計維持関係」という考え方にあります。基本的な考え方は、お子さんが親のお金で生活しているかどうかです。例えば、親と同居していて、食費や住居費などの生活費を親が負担している場合や、進学などで別居していても、親から子へ定期的な仕送り(生活費の送金)がある場合には、アルバイト収入がある程度あっても、原則として児童手当の対象とみなされます。通帳の記録など、仕送りの事実を示すものがあれば、生計維持関係を判断する際の根拠の一つになります。

最終的には、生活費の負担割合や就労の実態も含めて自治体が判断します。同居であればいくら稼いでも必ず大丈夫、というわけではありませんが、子ども3人世帯で、子どもが学生として家庭の生活の一員である限り、「アルバイト収入だけを理由に児童手当が止まる」ケースは多くないと考えてよいでしょう(※1)。

●160万円の壁 大学無償化は税法上の扶養で決まる(2つ目の扶養ルール)
次に、高等教育の修学支援新制度、いわゆる大学無償化です。この制度は、扶養する子どもが3人以上いる世帯であれば、一定の条件のもとで大学の授業料・入学金が大きく減額される仕組みです。国公立大学では授業料がほぼ全額、私立大学では平均的な授業料・入学金を上限に支援されるため、子どもが3人いる家庭にとっては非常に心強い制度です。

ここで注意したいのは、子ども3人世帯であれば誰でも自動的に支援を受けられるわけではないという点です。この制度の「扶養」は、児童手当のような生活上の扶養ではなく、「税法上の扶養人数」を基準に判定します。大学生年代(19歳以上23歳未満)の子どもは、年収160万円(額面)以下であれば税法上の扶養としてカウントされますが、1円でも超えると扶養から外れます。

子どもが一人扶養から外れると、「子ども3人世帯」ではなく「子ども2人世帯」と判定され、子ども3人世帯向けの「所得制限なし」という優遇が使えなくなります。その結果、一般の世帯と同じ厳しい所得制限(年収の目安など)が適用され、多くの共働き世帯などでは支援額が大きく縮小したり、世帯の状況によっては支援自体を受けられなくなったりするおそれがあります。つまり、1万円稼ぎすぎたことで、兄弟全員分の授業料支援が大幅に減ってしまうという事態が、仕組み上起こり得るのです。

さらに、大学無償化には「資産要件」もあります。親の年収に制限がなくても、預貯金や有価証券などの合計額が一定の基準を超えると対象外となる場合があります。具体的な金額や判定方法は制度改正や家族構成によって変わるため、最新の基準は文部科学省や日本学生支援機構(JASSO)の資料で確認する必要がありますが、収入だけでなく資産も見られるという点は押さえておきたいところです。

●150万円の壁 親の税金に影響する「特定親族特別控除」(3つ目の扶養ルール)
では、親自身の税金(所得税・住民税)はどうでしょうか。かつては「103万円の壁」が有名でしたが、2025年(令和7年)からは、大学生年代の子どもについて「特定親族特別控除」という新ルールが適用されます。この新制度では、子どもの給与収入が年収150万円(額面)に達するまでは、親は従来の扶養控除とほぼ同等の控除を受けることができます。しかし、150万円を超えた時点から控除額は段階的に減り始め、親の税負担が増えていきます。

なお、社会保険(106万円・130万円の壁)はこれらとは別の仕組みです。厚生労働省は、パート・アルバイトの方が年収106万円や130万円を気にして就業調整せずに働けるよう、「年収の壁・支援強化パッケージ」という対策を講じています。社会保険加入で手取り収入が減らないように、企業が「社会保険適用促進手当」を支給した場合は、その手当を保険料算定の対象外にできる仕組みが設けられました。また、繁忙期などで一時的に130万円を超えても、事業主の証明があれば被扶養者認定を続けられるルールも整えられています。これらは主に配偶者の働き方や社会保険の加入に関わる問題であり、本コラムで取り上げている「大学生の子どもの年収150万円・160万円」とは、対象となる制度も影響の及び方も別物だということを押さえておくと、全体像が整理しやすくなるはずです(※2)。

●2つの壁が作る「10万円の罠」に注意
ここまでの話を整理すると、子ども3人世帯には、非常に近い位置にある二つの年収の壁が存在します。一つ目は親の税金が変わるラインであり、年収150万円(額面)を超えると親の税金負担が増え始めます。二つ目は大学無償化が変わるラインであり、年収160万円(額面)を超えると子ども3人のカウントから外れ、所得制限なしの特典が使えなくなり、授業料支援が大きく縮小したり、世帯の収入状況によっては受けられなくなったりするおそれがあります。この150万円と160万円という、わずか10万円の差こそが、もっとも注意したいポイントです。例えば、お子さんの年収が155万円になったとします。親の税金は150万円超で増え始めますが、160万円は超えていないため、大学無償化の支援は引き続き受けられます。世帯全体の手取りは、おおむねプラスになるケースが多いでしょう。

しかし、お子さんの年収が161万円になったらどうでしょうか。160万円の壁を超えたことで、子ども3人のカウントから外れます。資産要件などを満たしていても、多子世帯優遇の仕組みそのものが使えなくなり、数万円のアルバイト代のために、年間で数十万円から百万円規模の支援が減る可能性があります。まさに「10万円の差が大きなマイナスを生む」ゾーンだと言えます。子ども3人世帯では、大学在学中のアルバイト年収はまず160万円を超えないことを大前提とし、できれば150万円前後を一つの目安として、テスト期間や就活の時期なども考慮しながらシフトを組む、といった「わが家のルール」を家族で話し合っておくと、判断がしやすくなります。

●まとめ 申請を忘れず、家族でルールを共有しよう
子ども3人世帯が大学無償化の恩恵を最大限活用するためのポイントは、次の3点に整理できます。
(1)資産要件を満たしていること
(2)別居の場合には仕送りなど生活費を負担している事実があること
(3)子どものアルバイト年収(額面)を160万円以下に抑え、できれば150万円前後を目安にしておくこと

これらの条件を意識しながら、学校や自治体からの案内に従って申請書類を提出していれば、制度上受けられる支援を取りこぼすリスクはかなり低くなります。ぜひこのコラムを読み終えたら、お子さんに「150万円は親の税金の警告ライン」「160万円は大学無償化の重要なライン」であることを、具体的な数字とともに伝えてください。曖昧なイメージではなく、「わが家の数字ルール」を家族で共有しておくことが、ご家族の資産と進学の選択肢を守る、最も確実な方法になります。

(※1) 政府広報オンライン「2024年10月分から児童手当が大幅拡充!対象となるかたは必ず申請を」
(※2) 文部科学省「高等教育の修学支援新制度」

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