コラムColumn
執筆者プロフィール
- AFP ファイナンシャル・プランナー
- 生活経済研究所長野 研究員
- 2025.08.14
- ライフプラン
亡くなった後に家族を困らせる「見えない負債」
●セキュリティ対策だけでは守れない“その後”の話
パスワードの使い回しは避け、二要素認証も設定済み。最近のフィッシング詐欺ニュースにも敏感で、「自分は大丈夫」と感じている方も多いかもしれません。しかし、もし今日、あなたに万が一のことが起きたらどのような課題が生ずるか想像したことはあるでしょうか。例えば、スマートフォンやPCに登録された月額課金サービス、いわゆるサブスクリプションサービス(以下、サブスクという)の支払いはどうなるのでしょうか。
実は今、「契約者が亡くなっても誰も気づかず、料金の支払いが続いてしまう」というトラブルが、遺族の間で静かに増えています。
●死後も生き続ける契約が、家族の重荷になる
Netflix、Spotify、Amazon Prime、日経電子版、Google One、Fitbit Premiumなど、私たちは日常的にさまざまなサブスクを利用しています。仮にこれらすべてに加入していた場合、月額8,937円(*1)になります。これらの契約はほとんどが自動更新制で、本人が解約しない限り、支払いが継続します。もし1年間解約し忘れていた場合、合計金額は107,244円にも達します。しかし、サービス提供会社は、利用者の死亡を自動的に把握できません。そのため、引き落としは続き、アカウントは残り続けます。
特に遺族を悩ませるのが、「年払い」で契約されているサービスです。月額課金のサービスは、毎月のクレジットカード明細や銀行口座の引き落とし履歴から比較的見つけやすく、故人の遺品整理を進める中で解約できることも少なくありません。しかし、年払い契約は、年に一度しか明細に現れないため、遺族がその存在に気づきにくいという大きな落とし穴があります。
また、仮に遺族がそのサービスの存在を把握していたとしても解決できない場合があります。「(死後に)毎月、会報誌が届くけれど、いつか、年会費の未納通知が届いたりしないだろうか」というような、有料か無料かも不明なサービスが続くケースです。
金銭面も侮れません。例えば、デザインや動画編集の仕事をしていた故人が利用していたAdobe Creative Cloudのような高額でプロ向けサービスの年額課金サービスが、亡くなった後も自動更新され続けるケースがあります。Adobe Creative Cloudのような個人向けサービスの多くは、支払いに関する郵送での催促なく、契約時に登録したメールアドレス宛に支払いの通知が届くのが一般的です。
そのため、遺族が故人のメールアカウントにアクセスできなければ、支払いに関する重要な通知を見逃し、解約されないまま契約は自動更新されてしまいます。例えば、Adobe Creative Cloudのようなサービスの年払い契約が、もし3年間解約されずに放置されていた場合、(年額)102,960円(*2)×3年で308,880円にもなります。遺族の把握できていないクレジットカードが凍結されずにいきていると、この高額な引き落としを把握できず、看過できない金額になり得るということです。
このように、月々の支払いは片っ端から止めたはずなのに、「もしかしたら、まだ気づいていない年払いのサービスがあるのではないか」という漠然とした不安が、遺族の心に重くのしかかります。しかも、故人のアカウント情報が不明な場合、これらのサービスの存在を確認したり、解約手続きを進めたりすることは極めて困難です。これは単なる“もったいない”どころの話ではありません。遺族にとっては精神的にも経済的にも、静かにのしかかる「見えない負債」となるのです。
●解約できない、何に加入していたかもわからない
遺族が故人のサブスクを解約しようとしても、多くのケースで壁にぶつかります。最大の問題は、アカウントへのアクセスができないことです。スマートフォンやPCがロックされていたり、パスワードがわからなかったり、二要素認証でのセキュリティが固くなるほど、どんなサービスに契約していたかすら分からなくなります。
また、本人以外の手続きには、死亡診断書や戸籍謄本、続柄を示す証明書、遺族の身分証明書など、煩雑な書類が必要になります。さらに、サービスごとに手続きの方法や必要な書類が異なり、1件ごとに個別対応を求められるため、大きな手間と時間を要します。
「カードを止めれば支払いも止まる」と考える方もいますが、それにも注意が必要です。支払い停止が未払いと見なされると、請求書が送られてくるサービスもあり、クラウドに保存されていた写真や連絡先などの大切なデータが失われるリスクもあります。つまり、「とりあえずカードを止めておけばいい」という単純な話ではありません。事前の整理と可視化が不可欠なのです。
●専門サービスという選択肢
そのため、故人のデジタル資産を整理する「デジタル遺品整理サービス(*3)」も登場しています。スマートフォンやPCのパスワード解除、アカウントの特定、サブスク解約、ID・パスワードのリスト化など、家族では対応が難しい作業を専門業者が代行してくれます。ただし、費用は作業内容により大きく異なり、例えば、サブスクの解約は1件5,000~19,800円、スマホやPCの解除は20~30万円に及ぶこともあります。アカウント調査やデータ保存には1~3万円程度が相場ですが、サービス内容に含まれる作業範囲や追加料金の有無を事前に確認することも重要です。
法的な側面を考慮する必要があれば、弁護士への依頼という選択肢もあります。仮想通貨やオンライン口座などは相続財産とみなされ、相続税の課税対象となることもあります。弁護士によるサービス(*4)は遺産整理業務の一環として提供され、費用は数十~数百万円にのぼることも。内訳としては相談料(30分5,000円~)、着手金(20~30万円)、報酬金(経済的利益の10~20%)、実費(5~7万円)、日当(1日3~5万円)などがかかります。確実な法的処理やトラブル回避を重視する場合には、弁護士への依頼も有効な手段ですが、これらの費用も遺族が負担せざるを得ない現実があります。
●今日からできる3つの備え
ここまでは自身が遺族になった場合を想定して読み進まれた方も多いことでしょう。しかし、同時に私たちが契約しているサブスクが同じリスクをはらんでいることも事実です。遺族に見えない負債を遺さないためには生前の準備が有効です。特に次の3点を意識するようにしましょう。
まず一つ目は、利用中のサブスク一覧を作ることです。サービス名、支払い方法(クレジットカードか口座引き落としか)、登録メールアドレス、解約を希望するかどうかなどを紙やメモアプリにまとめておきましょう。
二つ目は、このサブスク一覧の保管場所を家族に伝えておくことです。すべてのパスワードを開示する必要はありませんが、「どこを見ればわかるのか」だけでも伝えておくと、遺族が困る可能性はぐっと低くなります。
そして三つ目は、Apple(5)やGoogle(6)が提供する「デジタル遺産機能」を設定することです。これらを使えば、一定期間アカウントが使われなかった場合、あらかじめ指定しておいた家族にアクセス権が移行されます。設定には数分しかかかりませんので、このコラムを終えたらすぐに設定してください。
●小さな月額、されど大きな負担
月々数百円のサブスクが、死後に何年も続けば、大きな損失につながることもあります。何より、未解約の契約を止めるためにかかる手間や費用、そして終わりのない不安が、さらに家族を苦しめる原因になりかねません。ほんの少しのメモ、ひとつの設定で、それらの負担を防ぐことができます。
「死後の契約整理を他人任せにしない」
家族に向けた最も現実的な思いやりでもあります。
※脚注
*1:各サービス(Netflix広告つきスタンダード、Spotify Premium、Amazon Prime、日経電子版、Google One 2TB、Fitbit Premium)の月額費用合計8,937円(2025年8月時点)
*2:2025年7月改定後の「Creative Cloud Pro」価格
*3:「デジタル遺品とは?デジタル遺品整理をすべき理由と注意点」遺品整理メモリーズ
*4:「デジタル遺産が相続トラブルの原因に!?生前整理した方が良い理由を事例付きで解説」税理士法人チェスター
*5:Appleの「故人アカウント管理連絡先」設定方法: iPhoneの「設定」アプリを開き、自分の名前をタップ、「パスワードとセキュリティ」→「故人アカウント管理連絡先」
*6:Googleの「アカウント無効化管理ツール」設定方法: Googleアカウントにログインし、「データとプライバシー」セクション、「データとプライバシー」→「その他の設定」→「アカウント無効化管理ツール」
