コラムColumn
執筆者プロフィール
- CFP認定者
- 1級ファイナンシャルプランニング技能士
- 消費生活専門相談員資格
- CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
- 2025.10.09
- ライフプラン
休職時の「傷病手当金が給与の2/3受け取れる」に潜む罠?
9月8日放送のNHKあさイチ「病気とともに働く」に出演させていただきました。番組には1,000通を超える視聴者のみなさまからのFAXやメッセージが寄せられ、色々な想いを抱えながら、病気になっても働くことの喜びや大変さ、ご苦労を改めて痛感いたしました。
今回のコラムでは、番組出演の際に私がコメントした内容の一部をご紹介したいと思います。
休職したときの社会保険料は免除される?
ご紹介したいのは病気やケガで休職したときの社会保険料の扱いについてです。
会社員の場合、給与から厚生年金保険や健康保険、40歳以上であれば介護保険、雇用保険などの社会保険料が天引きされていると思います。
それが休職した場合、どうなるのでしょうか?
雇用保険については、賃金(給与・賞与)に対して一定率をかけて保険料を計算するため、休職して無給になると雇用保険料は発生しません。
しかし、厚生年金保険や健康保険、介護保険については、被保険者資格が続く限り(つまり会社を辞めない限り)、これらの保険料の支払いは必要です。
社会保険料は、休職前の標準報酬月額をもとに計算されます。例えば、協会けんぽ(東京支部)の場合、標準報酬月額30万円で、40歳未満(介護保険第2号被保険者に該当しない)の方は42,315円、40歳以上の方は44,700円の負担がかかります(※1)
おおむね標準報酬月額の15%程度を占める額で、病気やケガで休業し、何かと出費がかさむ家計にはかなりの負担です。
「傷病手当金」から社会保険料が差し引かれて支給されるケースがある
社会保険料の支払い方法は、給与天引きができない場合、本人が会社の指定口座に直接納付するか、復職後にまとめて精算となります。
後者は、会社がいったん立替払いをしてくれているわけですが、トラブルになりがちです(会社側「払ってください」、従業員側「こんな金額払えませんよ!無理です」等々)。
そこで見受けられるのが、傷病手当金から差し引かれるケースです。
正確には、傷病手当金そのものから天引きされる制度はなく、実務上、会社が立替納付分を清算する形で「差し引き」扱いされる場合があります。
もちろん、健康保険組合等から直接振込される場合は、ご自身で振込が必要です。
いずれにせよ、よく「傷病手当金は給与の2/3が受け取れる」などと解説されているものを目にするたびに、実際の患者支援の相談現場に従事している立場としては、「ここから社会保険料を負担しなければならないから、2/3ではないのだけれど…」と、患者さんやご家族に安心しすぎないようアドバイスしています。
休職中でも標準報酬月額が変わらない場合がほとんど
さらに、社会保険料の基準となる標準報酬月額は、休職中に変わらないことも盲点の一つです。
標準報酬月額は、①資格取得時決定、②定時決定、③随時改定の3つの決定方法があります。①は新たに社会保険に加入したときの「見込み給与」、②は毎年4~6月の給与(基本給+諸手当)の平均で決定した額が9月から翌年8月までの保険料に反映されます。
そして③は昇給・降給などで固定的賃金が変動し、その後3か月間の平均給与が従前の標準報酬月額と2等級以上の差がある場合、いわゆる「月額変更」です。
このうち一般的なのは②でしょう。仮に8月に病気になって9月から休職して給与の支払いがなくなっても、社会保険料は元気で働いていた頃のままなのです。
患者さんからは「いつになったら変わりますか?」というご相談をお受けしますが、上記③の随時改定は、基本的に月の支払基礎日数が17日未満の月について、原則として随時改定の対象月に算入されません。つまり、休職中に給与が支払われていない場合、支払基礎日数が不足して随時改定の対象にならず、結果的に標準報酬月額は変わらないままです。
なお、切実なのは、標準報酬月額は社会保険料だけでなく、高額療養費の所得区分にも影響を与えるという点です。
実際、私が顧問を務める患者家計サポート協会の患者調査によると「収入が減少した患者の約9割は、収入減少前の高額療養費制度の負担区分のまま、医療費を支払い続けている」という結果になっています(※2)
現行では、社会保険料の免除は「産前産後休業・育児休業中」のみ。傷病による休職中だけでなく介護休職の場合も社会保険料の負担は免除されることなく、これがハードルとなって離職せざるを得ないという方もいらっしゃいます。
もちろん、標準報酬月額は、傷病手当金の額や将来の年金額にも反映されるわけですし、超高齢・少子社会において、社会保険加入の範囲を拡大せざるを得ない現状もあるでしょう。
とはいえ、事情を抱える方に対しては、何らかの柔軟な対応や措置が望みたいところです。
※1:全国健康保険協会「令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生保険の保険料額表」(東京)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r7/ippan/13tokyo.pdf
※2:一般社団法人患者家計サポート協会「がん患者の経済的負担に関する実態調査(2025年 3月18日)」
https://patient-support-fp.com/wp-content/uploads/2025/03/6980c13bcc5507e87bc3c4f133b2ec57.pdf