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企業型DC・iDeCo出口戦略!一時金vs年金、手取り額はどっちが有利?


最近、確定拠出年金(DC)に貯まった資産の受け取り方について、「一時金と年金のどちらが有利なんですか?」と質問されるケースが増えてきているように感じます。団塊ジュニアも50代となり、本格的にリタイア後の資金計画を考える人が増加傾向にあるからなのかもしれません。

企業型DC、個人型DC(iDeCo、イデコ)ともに、受取りについては、60歳から75歳までの間に、一時金もしくは年金、または、一時金と年金の併用を選択できるのが通常です。

実際にDCの老齢給付金を受給済みの人は、どの方法で受け取った人が多いのかというと、「確定拠出年金統計資料」(運営管理機関連絡協議会、2024年3月)によると、2023年度は、企業型DCでは約97%の人が一時金を選択し、個人型DC(iDeCo)では約90%の人が一時金を選択していることがわかります(ただし、一時金と年金の併用を選択した人も一部含まれます)。

つまり、9割以上の人がDC資産の受取りは、一時金を選択しているわけです。しかし、一時金と年金の手取り額をきちんと計算してから一時金を選択した人は、それほど多くはないと思います。計算がかなり複雑だからです。なので、今回、具体的な金額を元に計算してみることにしました。

まず、一時金と年金のどちらが有利かを考えるうえで、考慮すべきポイントは以下の4項目があります。
1、 税金の違い
2、 社会保険料の違い
3、 手数料負担の違い
4、 非課税運用継続の違い

では、それぞれを具体的に見ていきましょう。

試算の条件としては、45歳から65歳までの20年間が積立期間だったとして、65歳時点で500万円のDC資産があったとします。その500万円を一時金または年金で受け取る場合の比較をします。ちなみに、公的年金の受給額は令和7年度のモデル年金額月額173,457円(厚生年金中心に加入していた男性の場合)とします。

1、税金の違い

一時金の場合は退職所得扱いとなります。掛金の積立期間を勤続年数とみなして退職所得控除を計算し、一時金の額から退職所得控除を差し引いて2分の1した金額が課税対象となるのが通常です。また、退職所得は分離課税なので、他の所得とは合算せず、退職所得のみで税金が計算されます。

一方、年金の場合は公的年金等の雑所得として、取り扱われます。公的年金などの金額と合計し、公的年金等控除を差し引いた金額が雑所得となって、他の所得と合算して税額が計算されます。

<DC資産500万円の場合の一時金の税金:0~40.6万円>
積立期間20年の退職所得控除が800万円ですので、税金はかかりません。仮に、他の退職金もあって退職所得控除が全く使えなかった場合は、所得税と住民税で約40.6万円の税負担となります。

<DC資産500万円の場合の年金の税金:70.7~86.9万円>
公的年金のみの税負担とDC資産の年金額を加えた税負担との差額を計算すると、受取期間5年で70.7万円、10年で75.6万円、15年で81.0万円、20年で86.9万円の税負担増となります(受取期間中は年3%で運用できるものとし、社会保険料の負担増も考慮して税額を計算)。

2、社会保険料の違い

一時金で受け取る場合は、退職所得として分離課税なので、他の所得に影響を及ぼしません。したがって、翌年の社会保険料(健康保険料や介護保険料)が上がることもありません。一方、年金で受け取る場合は、雑所得として総合課税になるので、所得が増える分、翌年の社会保険料も増えることになります。

<DC資産500万円の場合の一時金の社会保険料:0円>
影響ゼロ。

<DC資産500万円の場合の年金の社会保険料:74.8~113.8万円>
公的年金のみの社会保険料負担とDC資産の年金額を加えた社会保険料負担との差額を計算すると、受取期間5年で74.8万円、10年で85.9万円、15年で98.7万円、20年で113.8万円の社会保険料の負担増となります(社会保険料は練馬区の場合。受取期間中は年3%で運用できるものとして計算)。

3、手数料負担の違い

DC資産は、受け取るときに1回あたり440円の手数料がかかるのが一般的です。2025年7月1日、りそなグループ4行が給付時手数料の無料化を発表しましたので、今後、追随する金融機関が増えることを期待したいところですが、今のところは、受取回数×440円の手数料がかかるのが通常です。

また、年金として受け取る場合は、非課税での運用を続けられるとはいえ、運用中の運営管理機関に支払う手数料が発生します。手数料は安いところで1ヵ月当たり66円です。

<DC資産500万円の場合の一時金の手数料:440円>
一括で受け取るので、1回のみ給付時手数料440円がかかるだけ。運営管理機関に対する手数料はかかりません。

<DC資産500万円の場合の年金の手数料:8,360~33,440円>
受取回数を年2回とした場合、給付時手数料と運営管理機関への手数料を合計すると、受取期間5年で8,360円、10年で16,720円、15年で25,080円、20年で33,440円となります。

4、非課税運用継続の違い

一時金で受け取ってしまうと、非課税での運用は終了します。その後、NISA口座を利用すればある程度は非課税での運用を続けられますが、NISAの生涯投資枠(1,800万円)をすでに使っている場合は、課税口座に移す必要があります。

一方、年金で受け取る場合は、非課税での運用を続けながら分割して受け取っていくことができます。

<DC資産500万円の場合の一時金の非課税運用メリット:なし>
NISA口座を使えば多少の非課税メリットは受けられます。

<DC資産500万円の場合の年金の非課税運用メリット:+43.1~+189.0万円>
年3%で運用しながら分割して受け取っていくと、受取額合計は5年で543.1万円、10年で586.8万円、15年で635.3万円、20年で689.0万円となります(給付時手数料+運管手数料控除後)。

まとめ

非課税運用のメリット部分だけを見ると、受取額が一時金よりも多いように見えますが、税金の負担増と社会保険料の負担増を差し引いた手取り額を計算すると、5年で397.6万円、10年で425.3万円、15年で455.6万円、20年で488.3万円となります。税金と社会保険料の負担増が大きな重しとしてのしかかってくることがわかります。

DC資産額を1,000万円や2,000万円にして計算すると、一時金の場合の税負担が重くなる関係で、年金受取りの見た目の受取額のほうが多くなるケースもあることがわかりましたが、それでも、一時金として受け取って、その後、課税口座で運用しながら分割して受け取ったほうがトータルの手取り額は多くなります。

もちろん、他の所得の有無や、公的年金の受取額の違い、DC資産の受取開始時期の違いなど、前提条件が変わることで試算結果も変わりますので画一的に断定はできませんが、現在の税制と社会保険制度が続く状態においては、DC資産は一時金で受け取って課税口座で運用しながら分割して取り崩していくのが賢い受け取り方だと言えそうです。

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