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高齢者の医療保障 〜父の入院をきっかけに考えたこと〜


先日、81歳になる父が特発性ネフローゼ症候群で入院しました。この病気は難病に指定されており、主に投薬と対症療法によって治療が進められますが、回復には時間を要します。父の場合、5月2日に緊急入院し、6月17日までの47日間にわたる入院となりました。検査結果によってはさらに療養が長引く可能性もありましたが、幸い数値は安定し、現在は自宅で療養しています。

突然の入院に戸惑いはありましたが、何より驚いたのはその医療費の高さでした。実際に病院の窓口で支払った金額は、50万円にのぼります。保険診療については、5月・6月ともに高額療養費制度が適用されたため、各月の自己負担は57,600円で済みました。

予想以上に負担が大きかったのが、入院中の食事代と個室の差額ベッド代です。食事代は1食あたり510円で、計137食分=69,870円。個室の差額ベッド代は1日あたり6,600円で、47日分=310,200円にのぼります。この2つの費用だけで全体の約76%を占めており、高額療養費制度が適用されているとはいえ、実際の支出は決して少なくないと実感しました。

父は50代の頃、私の勧めで1日あたり5,000円の入院給付金がもらえる終身医療保険に加入しました。今回はその給付金が入院日数分支払われる予定で、家計負担は軽減されそうです。また、それなりに預貯金もあり、経済的に周囲に迷惑をかけることはなさそうです。しかし、「もし、こうした備えがなかったとしたら・・・」と考えると、背筋が凍る思いがします。

■医療費の自己負担は軽くても、支出がかさむケースも
高齢になると、医療費の自己負担割合は1〜2割に軽減されます(※1)。加えて、高額療養費制度の自己負担限度額も、70歳未満の方より軽減される仕組みになっています。そのため、「高齢者の医療費はお金がかからない」と考える方もいます。

しかし実際には、自己負担が軽くなっても出費が抑えられるとは限りません。公的医療保険の適用範囲は限定されており、差額ベッド代(父が入院している病院では1日あたり6,600円)や入院中の食事代(1食510円)などは保険対象外です。

なお、父は途中で看護師から「大部屋が空いた」と告げられたにもかかわらず、治療に専念できる環境を優先して、退院まで個室を選択しました。父は加入している終身医療保険から入院給付金が出ることを確認しており、このことが判断に影響を与えた可能性があります。もし終身医療保険に加入していなければ、個室を選択しなかったかもしれません。

また、介添えをする家族の交通費や病院で必要な日用品なども自己負担になります。実際、母は自動車を運転できないためタクシーでの往復が多く、自宅と病院までの1回あたりの往復タクシー代はおよそ5,000円で、交通費だけでも相当な金額になります。また、下着やパジャマ、タオル、歯ブラシなどの購入費用として2万円ほどかかりました。

■民間の医療保険・共済の役割と限界
こうした出費に対して、民間の医療保険や共済が果たす役割は大きいと感じました。父が加入している終身医療保険では、1日当たり5,000円の入院給付金が支払われます。今回のように長期の入院となっても、差額ベッド代や食事代の多くをカバーできる点は心強く、経済的な不安を抱えることなく療養に集中できる環境が整いました。さらに、この医療保険は1入院あたり180日まで保障されるタイプなので、比較的長期の入院にも対応できる点で安心です。最近主流となっている60日型の医療保険であれば、退院までに給付が打ち切られてしまう可能性があり、不安を感じたかもしれません。

とはいえ、医療保険が万能なわけではありません。入院給付金の支払日数には上限がありますし、機能訓練や長期のリハビリなどに対応するには、別途特約が必要な場合もあります。また、高齢になってから加入するのは、毎月の掛金や健康状態の点で不利になることが多いため、やはり「健康なうちに」「早めに」備えることが重要です。

■医療費負担を減らすために知っておきたい制度
民間の保険・共済や貯蓄で備えておくことは重要ですが、医療費の負担を軽減する公的制度について理解し、活用することも忘れてはなりません。ここでは、高齢者が活用できる主な制度を紹介します。

高齢者の医療費を軽減する制度の代表が「高額療養費制度」です。たとえば70歳以上で年収が約370万円未満の方なら、1ヶ月の自己負担限度額は57,600円に抑えられます。ただし、これは保険診療に限られており、差額ベッド代や入院時の食事代は含まれません。

また、高額療養費制度では、70歳以上が入院した場合、同じ健康保険に加入している家族の医療費を世帯単位で合算して限度額を計算します。これにより、世帯内での医療費負担が軽減される仕組みになっています。「介護医療合算制度」も活用すれば、医療費と介護費を年間で合算し、限度額を超えた分が戻ってくる可能性があります。

さらに、確定申告による「医療費控除」も見逃せません。年間に支払った医療費が一定額を超えた場合、所得控除として税負担が軽減されます。公的医療保険の適用外の費用であっても、治療のために必要な支出であれば医療費控除の対象となります。たとえば、保険診療の自己負担、差額ベッド代、食事代、さらには治療を目的とした自費診療(インプラント、レーシックなど)も含まれます。ただし、美容目的の施術や保険金で補てんされた分は除外されます。領収書や通院交通費の記録を残しておくことが大切です。

加えて、「障害者控除」も知っておきたい制度です。治療後に後遺症が残り、常時介護が必要になった場合、一定の条件を満たせば、障害者控除(27万円)、特別障害者控除(40万円)が適用される可能性があります。要介護認定と障害者控除の対象は一致しないため、自治体に「障害者控除対象者認定書」を申請して判定を受けることがポイントです。

このように、制度を知って適切に活用することは、医療費負担を抑えるための大きな助けになります。制度は申請が必要なものも多いため、事前に知っておくことが何よりの備えです。

■安心して療養できる備えを
今回、父の入院を通じて、医療保障の大切さを改めて実感しました。公的制度や民間の保険・共済、そして貯蓄の備えがなければ、治療に集中できない不安がつきまとうことになったでしょう。公的制度の活用、民間保険・共済の加入、そして日常的な貯蓄。この三本柱をバランスよく備えておくことが、いざというときの安心感につながります。

読者の皆さんにも、ぜひ一度、ご自身やご家族の医療保障について考えるきっかけにしていただけたらと思います。

※1:現役並み所得者は3割になるケースもある

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