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公正証書遺言の電子化がスタート ~遺言はまだ早い?~


「遺言なんて自分にはまだ早い」と考える方は少なくありません。しかし、相続をめぐるトラブルが年々増加している(※1)なか、元気なうちに「想い」や「意志」を形にしておく重要性が高まっています。こうした状況を受け、2025年から公正証書遺言の電子化がスタートします。これまで「対面で紙に残すもの」だった遺言が、デジタル技術の活用により、より身近で利用しやすいものへと進化しようとしています。

■公正証書遺言とは何か
公正証書遺言とは、公証人という法律の専門家が、遺言者本人の意思に基づいて作成する、最も信頼性の高い遺言の形式です。自筆で作成する「自筆証書遺言」も広く用いられていますが、書式の不備により無効とされるケースも少なくありません。トラブル防止という点では、公正証書遺言の方がより安全です。

また、公正証書遺言では、相続開始後に必要とされる「検認」の手続き(※2)が不要なため、速やかに内容が実行に移されるという利点もあります。これまで作成には、公証役場への出向や証人の立会いといった手間がかかっていましたが、今回の制度改正により、このハードルは大きく下がるかもしれません。

■電子化によってどう変わるのか
2025年からは、公正証書遺言の作成・保存に電子的な手段が導入されます。これにより、遺言の原本は紙ではなく、電子データとして保管されるようになります。なお、完全な「オンライン作成」が可能になるわけではなく、これまで通り、公証人による面談と本人確認は原則的に必要です。

ただし、今後は公証人との面談そのものが、一定の条件を満たせばオンラインで実施できるようになる可能性があります。実際、2021年からは会社設立時の定款認証において、「リモート公証制度」が導入されており、公証人とのやり取りをZoomなどのウェブ会議システムで行えるようになっています。事前に必要書類を電子的に提出し、本人確認や内容確認をオンラインで行うことで、遠隔地からの手続きも可能となっています。

今回の遺言の電子化においても、将来的にはこうした仕組みが適用され、身体に不自由がある方や遠方に住む方でも、自宅から遺言作成が可能になることが期待されます。

さらに、電子化された遺言は法務省が運用する電子公証システムにより一元的に管理されるため、検索性や保存性が大幅に向上します。紙のように物理的に保管する必要がなく、紛失や改ざんのリスクも減少します。これにより、制度そのものの信頼性も高まるといえるでしょう。

■遺言が「特別な人のもの」ではなくなる時代へ
遺言というと、資産家や高齢者のためのものと思われがちですが、実際にはより多くの人に必要とされています。たとえば、子がいない夫婦や再婚家庭(※3)、内縁関係にあるパートナー、あるいは身寄りのない独身者など、自分の死後に「こうしてほしい」という想いがある人すべてが対象になります。法定相続のルールではカバーできない想いを、あらかじめ書き残すことで、遺された人々の混乱を防ぐことができます。

近年では、遺言を「資産の配分を決めるための文書」ではなく、「家族への手紙」として捉える人も増えています。公正証書遺言には、法的な指示とは別に「付言事項(ふげんじこう)」を設けることができ、自分の気持ちや家族への感謝、将来への願いなどを自由に書き添えることが可能です。

たとえば、「配偶者には長年支えてくれたことに感謝している」「子どもたちには互いに助け合って生きていってほしい」など、金銭では表せない想いを文字で伝えることができるのです。付言事項には法的拘束力はありませんが、相続人にとっては遺された人の気持ちを受け取る重要なメッセージとなります。

電子化された公正証書遺言でも、こうした付言事項を含めて記録され、安全かつ確実に長期間保管されます。紙のように紛失のリスクがなく、本人の意思がより明確な形で家族に伝わる点も、制度の大きな意義といえるでしょう。

■今こそ考えたい、「自分の言葉を残す」ということ
公正証書遺言の電子化は、制度の利便性や安全性を高めるだけでなく、遺言に対する心理的なハードルを下げる効果も期待されます。「自分には必要ない」「まだ早い」「手間がかかりそう」と感じていた人にとっても、「検討してみようかな」と思えるきっかけとなるはずです。

もちろん、どれほど制度が便利になっても、「何を残すか」「誰に何を伝えるか」を考えるのは本人にしかできません。だからこそ、健康で判断力がしっかりしている今のうちに、自分の人生を振り返るような気持ちで、遺言について考えてみてはいかがでしょうか。

「遺言はまだ早い」ではなく、「遺言を書くことで、今の人生と向き合う」。そんな発想の転換が、これからの時代には求められているのかもしれません。

※1:家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件の件数は、2000年には8,889件だったが、2023年には13,872件にまで増加している。
※2:家庭裁判所が、自筆証書遺言などの内容や形式を確認し、偽造や改ざんを防ぐために行う手続き。遺言の有効性を判断するものではない。

※3:民法では、配偶者と子が法定相続人になるが、「子」は血縁に基づいて認定されるため、配偶者の連れ子には、養子縁組をしていない限り相続権がない。そのため、思わぬ不公平やトラブルが生じやすい。

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