コラムColumn
執筆者プロフィール
- CFP ファイナンシャル・プランナー
- 生活経済研究所長野 事務局長
- 日本FP協会静岡支部 支部長
- 東海ブロック 副ブロック長
- 2025.04.03
- 住宅
2025年の住宅補助金:子育てグリーン住宅支援事業
住宅購入時の補助金制度「子育てグリーン住宅支援事業」は、2050年カーボンニュートラル実現を⽬指す政策の一環であり住宅業界でも注目されています。しかし前身ともいえる「子育てエコホーム支援事業」や「こどもみらい住宅支援事業」など類似していた補助金制度との違いや、聞き馴染みのない「GX志向型住宅」など、一般生活者からは「制度が分かりにくい」という批判も聞こえてきます。
●これまでの住宅支援事業
2021年に登場した「こどもみらい住宅支援事業」、2022年の「こどもエコすまい支援事業」、2023年からの「子育てエコホーム支援事業」は、ZEH住宅や認定長期優良住宅など断熱性能の高い住宅が対象となっていましたが、これらの事業に共通する課題として、補助金額が実際の工事費用に対して十分でなかった点が挙げられます。
補助金対象住宅の基準をクリアするのに高断熱窓の設置や高効率給湯器の導入で、数百万円以上の追加工事費がかかるケースでも補助金は最大100万円であったため、経済的ゆとりのある世帯のみが恩恵を受けられる結果となり、制度の名称でもある子育て世帯や若年層は利用しにくいという批判もありました。
●子育てグリーン住宅支援事業(2025年~)
補助金の対象となる住宅は、①GX志向型住宅、②長期優良住宅、③ZEH水準住宅と3タイプあり、それぞれの補助金額は次のとおりです。
① GX志向型住宅 160万円
② 長期優良住宅(解体工事なし)80万円(※1)
③ ZEH水準住宅(解体工事なし)40万円(※1)
これまでの課題を解決するような補助金額とはなりませんが、2025年4月に施行された建築基準法改正により、すべての新築住宅は断熱等級4以上に適合することが義務付けられているため、補助金の対象住宅とするための追加工事費用は縮小傾向にあるようです。
●GX志向型住宅とは
次のA~Dすべての要件に適合するものをGX志向型住宅と定義します。
A) 断熱等性能等級「6以上」
B) 再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量の削減率「35%以上」
C) 再生可能エネルギーを含む一次エネルギー消費量の削減率「100%以上」
D) 高度エネルギーマネジメントの導入(HEMSコントローラーの設置)
A~Cの基準を満たすためには断熱材や窓の高性能化が必須であり、Bの基準を満たすためにはエネルギー効率の高い設備の導入も必要です。また現在Cの基準を満たすものは太陽光発電システムにほぼ限定されるなど、建物の高額化は避けられません。Dについては制度開始の直前に決まったもので、対応する家電製品などをスマホで遠隔地からコントロールできるなどのメリットもあり、使いこなせると相当に便利ですが設置には5~15万円程度の費用がかかります。
これらを踏まえると、高額な機器導入が必要なGX志向型住宅よりも損得だけならば長期優良住宅のほうが得だといわれますが、GX志向型住宅の場合は、本来の制度対象者である子育て世帯や若年夫婦世帯以外の世帯も利用が可能であるため、世帯によっては唯一の選択肢かもしれません。
●対象住宅はどれがいい?
長期優良住宅やZEH水準住宅に求められる断熱等性能等級が「5以上」であるのに対し、建築費はそれなりに高額になるものの、GX志向型住宅は「6以上」であるため省エネルギー性能が高く、光熱費が安くなるだけでなく住まいの快適さや健康面で質の向上が期待できます。
ZEH水準住宅は基本的なコンセプトがGX志向型住宅と同じですが、ワンランク下の性能値とイメージできます。ある程度の省エネルギー性能を確保しつつ、できるだけ建築費を抑えたい場合には有効な選択肢です。
長期優良住宅はGX志向型住宅やZEH水準住宅とは目指すところが異なり、「長期にわたって良好な状態で住める住宅」であることが求められるため、省エネルギー性だけでなく耐震性や可変性、バリアフリー性、災害配慮など10の性能項目をある一定基準でクリアした住宅が認定の対象となり、「各方面にバランスの良い住宅」といえます。
結果として、すべてが同じ住宅性能ではないため、ご自身の住宅に求める性能がどのようなものなのかを改めて認識したうえで決定する必要があります。
※1 既存建物の解体工事がある場合は20万円が上乗せされる
※2 Home Energy Management Service(ホーム・ エネルギー・マネジメント・システム)の略。建物内で使用している電気機器の使用量や太陽光発電などの稼働状況をモニター画面で確認できるシステム