コラムColumn
執筆者プロフィール
- CFP ファイナンシャル・プランナー
- 生活経済研究所長野 所長
- 2025.02.13
- 投資
三大ネット証券のNISA売れ筋トップ10には留意しよう
- 投資信託の分散投資の考え方
投資信託の分散投資では、収益率の高さを意識する人が多いものの、リスク(ブレ、標準偏差)を意識する人がほとんどいません。短期売買ならいざ知らず、長期運用ではリスクが大きいと手取りが下がるため、異なる動きをする資産を組み合わせてリスクを下げる(手取りを増やす)のが基本です。すなわち、カテゴリーの異なる投資信託を選ぶことが重要です。
ここでは値動きの異なるカテゴリー別に分けて解説するため、便宜的にA~F群とZ群(その他)の計7つのカテゴリーに分類して解説します。
・A群 日本株式
・B群 日本債券
・C群 外国株式(為替ヘッジ有)
・D群 外国株式(為替ヘッジ無)
・E群 外国債券(為替ヘッジ有)
・F群 外国債券(為替ヘッジ無)
・Z群 その他(バランスファンドなど)
なお、為替ヘッジ有は為替の影響をあまり受けないように工夫されているもので、円安メリットを捨てる一方、円高リスクを回避しやすくなります。逆に、為替ヘッジ無は為替の変動リスクをダイレクトに受けます。
- 三大ネット証券の売れ筋分析
NISAの投資信託の買い方として、売れ筋トップ10から複数購入して分散したつもりになっている人がいますが、これには相当に留意が必要です。というのも、三大ネット証券(SBI証券、楽天証券、マネックス証券)の売れ筋トップ10はある特定のカテゴリに集中しているからです。2025年2月3日における各証券会社の売れ筋トップ10は次の通りです。
・SBI証券: A群(日本株式)20% / D群(外国株式・ヘッジ無)70% / Z群(その他)10%
・楽天証券: A群(日本株式)10% / D群(外国株式・ヘッジ無)90%
・マネックス証券: A群(日本株式)10% / D群(外国株式・ヘッジ無)90%
ご覧のとおり、三大ネット証券の売れ筋トップ10全体では、外国株式(為替ヘッジ無)【D群】が約8割超を占めており、残りが日本株式【A群】とその他【Z群】という構成になっています。つまり、これらの中から複数分散しても、D群ばかり購入していて、分散としての価値がない状態に陥りやすいのです。
●特に全世界株式(オルカン)と米国株式(S&P500)の偏重
D群の中でも全世界株式(オルカン)と米国株式(特にS&P500)に集中しているのも特徴です。トップ10のうち、両者が占める割合はSBI証券4本、楽天証券5本、マネックス証券4本で、正直分散したことになりません。
しかも、両者は相関が高く(0.98)、騰落のタイミングがほぼ同じで、そのリスクも同程度です。一方、収益率はS&P500が上回っているため、率直に申し上げれば、全世界株式(オルカン)を買う価値が見いだせません。必ずしも過去のトレンドが未来を保証するわけではありませんが、確率上は両者の値動きが連動し、全世界株式(オルカン)よりもS&P500の方が上回る可能性が高い現状にあります。
一方、S&P500(D群)と日本債券(B群)との相関係数は-0.02、ゴールドインデックスファンド(Z群、為替ヘッジ無)との相関係数は0.14と、互いの値動きが異なることがわかっています。すなわち、組み合わせればブレが小さくなり、手取りが増える(分散投資効果が出る)ケースが多いので、資産全体の安定性を高める上で有効な選択肢となります。
- バンドワゴン効果と投資判断の影響
それなのに、これらの情報が浸透していないのは、行動経済学における「バンドワゴン効果」によるものではないかと推察されます。「バンドワゴン効果」とは、他人が購入している商品を自分も購入したくなるという現象を指します。多くの人々が支持している選択肢がさらに多くの支持を集める傾向があり、行列ができているラーメン店につい並んでしまう現象も、バンドワゴン効果の一例として挙げられます。
このバンドワゴン効果は、YouTubeなどのプラットフォームでも見られます。誰しも視聴回数の多い動画に影響されて、自分の投資行動を決定する傾向があるということですが、現在でもS&P500と全世界株式(オルカン)に集中するのは、両者を比較したり推奨したりするYouTubeの影響を受けている人が多いからでしょう。これらの影響を排除するためには、基礎知識と具体的なデータの確認が重要です。特に、次のような行動には注意が必要です。
① YouTube動画で勧められていた一つの商品に集中投資している
分散投資効果が得られないため、リスクを低減できない。
② 売れ筋ランキングの中から複数を選択している
複数の商品を選んでいても全てがD群になりやすく、リスクを低減できていない。
③ 他人が作成したグラフを鵜呑みにする
必ず自分でデータを確認し、真偽を確かめる。
④ 説得力のある時期だけをクリップしていないか確認する
理論もグラフも都合の良い期間をクリップするとそれらしく見えてしまうので、評価条件を揃える。
是非皆さんも、これらを心に留めて投資に活かしましょう。特に投資信託は期間をそろえて基準価額を手に入れ、自分で収益率やリスクを確認するプロセスが大切です。
- データ取得環境の変化と対策
正確なデータを基にした投資判断の重要性が増してはいるものの、主要サイトが投資信託の基準価額ダウンロード機能を廃止したことにより、個人投資家はYahoo!ファイナンスくらいしか基準価額が取得できなくなりました。これは10年分のデータを取得するには操作性が悪く、手間がかかりすぎるのが難点です。私共は投資助言代理業として投資信託の運用に関するセミナーを数多く実施していますが、その参加者が基準価額を取得しやすくするようにエクセルファイルを無料公開しています。
▼月末基準価格抽出ツール
https://fpi-j.com/report_cat/investment-trust/
- 必ず自分で裏を取ろう
いかがでしょうか。YouTube では当然まともな話をされているコンテンツもありますが、データに基づかない話がまことしやかに独り歩きしているものもたくさんあります。ラーメンを食べる上ではそれらに影響されても家計が破綻することはありませんが、皆さんの老後資金を増やす上では老後の生活の悪化に直結します。必ず、ご自身で裏を取る習慣をつけましょう。
※本コラムは特定ファンドの推奨を目的とするものではなく、一般的な情報提供です。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。