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遺族年金の見直しによる影響と対策


2024年7月30日に厚生労働省の社会保険審議会年金部会より遺族年金の見直し案が、12月10日には修正案が公表されています。遺族年金に存在する男女差を解消するのが主な見直しの方向性となっています。

遺族基礎年金については2014年の改定により、既に男女差が解消されていましたので、今回は遺族厚生年金の男女差の解消が目的です。

■主な改正案
(1)60歳未満の「子のない妻」への遺族厚生年金を5年間の有期給付に
現行制度では、「子のない妻」に対する遺族厚生年金の給付期間について、死別当時30歳未満の場合は5年間の有期給付、死別当時30歳以上の場合には終身給付となっています。改正案では5年間の有期給付が適用される年齢を30歳未満から段階的に60歳未満まで拡大されます。経過措置として20年をかけて段階的に有期給付の対象となる年齢を引き上げていく予定です。また、また、有期給付の拡大に対応するため、「有期給付加算」という新たな制度の導入も検討されています。

一方、現行制度では55歳未満の「子のない夫」に対し、遺族厚生年金は給付されませんが、これを妻と同様に60歳未満は5年間の有期給付とすることで男女差を解消します。

(2)中高齢寡婦加算の段階的廃止
中高齢寡婦加算とは、遺族厚生年金の受給権を取得当時に「40歳以上65歳未満の妻」に対し、妻が65歳に達するまでの間、遺族厚生年金に612,000円(令和6年度)が加算されるものです。受給権取得当時とは、「子のない妻」は夫の死亡時、「子のいる妻」は子が18歳に到達し遺族基礎年金が支給停止された時です。妻に対しては給付されますが、夫に対しては給付されないため、ここにも男女差が存在しています。

これは「主たる家計の担い手が夫であり、夫と死別した妻にとって、その後の就労が困難である」との社会的経済状況を背景に設計されたものですが、女性の就業の進展等を踏まえ、また、年金制度上の男女差を解消すべき観点からも、将来に向かって段階的に廃止が検討されています。こちらも経過措置として20年をかけて段階的に減額され、最終的には廃止される予定です。

■SNS等の反応は「改悪」
改正案は、来年の通常国会に提出する公的年金制度の改正法案に盛り込まれ、早ければ2025年度から改正されることになります。

死別当時30歳以上の妻にとっては、遺族厚生年金が「終身給付」から「5年間の有期給付」に短縮されるとあって、SNS等ではネガティブな改正と認識されているようです。しかし、年金制度は長期にわたる制度であり、社会経済状況の変化にあわせて見直しするのは当然だと思います。

男女共同参画白書によると、1985年には専業主婦世帯936万世帯に対し、共働き世帯は718万世帯でしたが、2023年では専業主婦世帯404万世帯に対し、共働き世帯が1,206万世帯となっており、夫婦世帯のうち75%が共働きです。女性の就業が促進される中、「夫が主たる生計維持者であり、死別した妻が就労により生計を立てるのは困難である」という考え方をベースにした制度設計とはギャップがあるように感じます。

■「子のある妻」も影響を受ける
ネット等では、「影響を受けるのは『子のいない妻』であり、『子のいる妻』への影響はない」と誤って解説している記事もあります。改正の影響を受けないのは、「60歳以上の高齢期の配偶者」と「施行日前に受給権が発生した配偶者」ですから、それ以外の世帯には良くも悪くも影響があると考えたほうがよいでしょう。

「子のある妻」の場合、子が18歳に到達するまでは遺族基礎年金と遺族厚生年金が給付されますが、子が18歳に到達した後は、遺族基礎年金は支給停止され、遺族厚生年金は5年間の有期給付となります。また、子が18歳に到達した時に40歳以上65歳未満であれば中高齢寡婦加算が妻65歳まで給付されますが、これも段階的に減額されます。

「『子のある妻』は影響を受けない」は全くの誤りで、実際には給付の減額は免れないでしょう。

■どのような対策が必要か
有期給付の年齢拡大や中高齢寡婦加算の廃止も、段階的に行われるため、施行日の年齢によってその影響度合いは異なります(若い世代ほど影響が大きくなります)。

まずは「何がどう変わるのか」を正しく理解することが重要です。そのうえで、「自分たちの世帯にはどのような影響があるのか」を金額ベースで把握することです。

遺族年金の額は生命保険や共済の加入額に大きく関係しますので、多くの世帯で生命保障の見直しが必要になるでしょう。夫も遺族厚生年金を受給しやすくなりますから、妻の生命保障の見直しも求められます。私たちの家計に直結しますから、今後の制度改正に関する情報にアンテナを高くしておきましょう。

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