コラムColumn
執筆者プロフィール
- CFP認定者
- 1級ファイナンシャルプランニング技能士
- 消費生活専門相談員資格
- CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
- 2024.12.12
- ライフプラン
パート主婦は要注意!高額療養費の上限額引き上げの影響
先日の衆院選で与党が過半数割れとなって以降、103万円、106万円、130万円など「年収の壁」の見直しに関する報道が目につきます。
国民民主党が主張するように103万円が仮に176万円に引き上げられれば、税負担が減って手取りが増える。一方、厚生労働省が検討している106万円の年収要件や従業員数の要件が撤廃されれば、健康保険や厚生年金保険に加入することになり、社会保険料の負担が増えて手取りが減る。
さらには、立憲民主党が、130万円の壁を給付で埋める「就労支援給付制度の導入に関する法律案」を国会に再提出する等々。なんだか複雑すぎて「いったい、わが家はどうすれば良いの?」といった声も聞こえてきそうです。
2017年・2018年の70歳以上の高額療養費の改正は?
さらに加えて、私が注目しているのが「高額療養費」の改正です。
高額療養費はこれまでもたびたび改正されていますが、上限額については、2017年と2018年にかけて、段階的に70歳以上の上限額が引き上げられ、現役並みの所得区分が3区分に細分化されました。これによって、70歳以上でも、現役世代と同じように一定の収入がある場合、相応に医療費を負担しなくてはなりません。
同時に、所得区分が一般(年収156万~370万円)の人に対しては、月額1万8,000円とは別に、1年間(8月~翌7月)の外来の自己負担額の合計額に、年間14万4,000円の上限(外来年間合算)が設けられるようになっています。
つまり、例えば、年金収入200万円の70歳以上の方なら、毎月通院しても、医療費の上限は月18,000円まで。さらに、年間14万4,000円を超えるようなら、超えた分が還付されるというしくみです。
2015年の70歳以上の高額療養費で所得区分が3区分から5区分に
そして70歳未満の上限額の見直しについては、2015年1月以降、以下の通り、所得区分が3段階から5段階へと細分化されています。
この改正によって、年収770万円以上が上位所得者とひとまとめになっていたのを、細分化して、負担能力に応じた上限額に変更されました。
その内容は以下の通りです。
<改正前:2014年12月診療分まで>3区分:月単位の上限額、( )内は多数回該当
① 上位所得者(年収約770万円~):150,000円+(医療費-500,000円)×1% (83,400円)
② 一般所得者(上位所得者・低所得者以外):80,100円+(医療費-267,000円)×1%(44,400円)
③ 住民税非課税:35,400円(24,600円)
<改正後:2015年1月診療分から>5区分:月単位の上限額、( )内は多数回該当
① 年収約1,160万円~:252,600円+(医療費-842,000円)×1%(140,100円)
② 年収約770~約1,160万円:167,400円+(医療費-558,000円)×1%(93,000円)
③ 年収約370~約770万円:80,100円+(医療費-267,000円)×1%(44,400円)
④ ~年収約370万円:57,600円(44,400円)
⑤ 住民税非課税世帯:35,400円(24,600円)
今回の改正で70歳未満の高額療養費の上限額が引き上げ?
そして、今回、俎上に上がっているのは、70歳未満の上限額についてです。引き上げられるのは、前回の改正から世帯収入が約16%、消費者物価指数が約8%上昇している現状を踏まえてのこと。
気になる上げ幅ですが、仮に、16%引き上げられた場合、上記の所得区分③の上限額は、現行の約8万円から1万2,800円増の9万2,800円になり、この額を超えなければ、高額療養費の適用が受けられません。
この「80,100+(医療費-267,000)×1%」という水準が設定されたのが2006年の改正で、それ以前も所得水準が上昇する都度、見直しは行われてきました。
ですから、見直しは仕方がないことです。とはいえ、引き上げられた場合、医療費の負担が過大になる患者さんが増えるのは確実です。
それに、当然のことながら、治療が長期間にわたり続いているにも関わらず、毎月の医療費が、この上限額ギリギリのため、高額療養費の適用対象外になってしまう患者さんは一定数いて、医療現場では、その方々への負担軽減のアドバイスに頭を悩ませています。
高額療養費の上限額がギリギリで達しない人への対策とは?
そこで私は、冒頭ご紹介した壁の見直しが、その対策の一つに有利に働くのではと考えています。その対策とは、夫の扶養の範囲内で働くパート妻の年収を増やして、社会保険に加入することで、所得区分を引き下げる方法です。
例えば、年収100万円で働く30代のA子さんががんに罹患し、毎月7万円の医療費がかかっているとします。夫は会社員(協会けんぽ)で年収500万円です。
A子さん自身の収入は低いですが、夫の扶養に入っていますので、高額療養費の所得区分は③年収約370~約770万円で上限額が計算されます。
A子さんの医療費の場合、この上限額に達していないため、高額療養費の適用が受けられず、毎月7万円の医療費を支払っている状態です。
そのため、対策として、A子さんの年収を100万円から110万円へと10万円増やして、社会保険に加入すると、所得区分は④~年収約370万円となります。毎月の上限額は57,600円、さらに多数回該当になると44,400円に引き下げられます。
以下の通り、対策前と対策後を現行制度で試算してみると、税金や社会保険料を支払うことで約16万円の負担が増えるものの、医療費は約26.8万円と約10.8万円も負担が軽くなります。
<手取り収入の変化>
・A子さんの手取りは100万円から93万9,084円に減少し、約16万円の負担増(内訳:所得税0円+住民税5,000円+健康保険料5万2,692円+厚生年金保険料9万6,624円+雇用保険料6,600円※)
※【試算の前提条件】実際には翌年課税される住民税も、本年に課税されるものとして試算。健康保険料9.98%、厚生年金保険料18.3%(いずれも労使折半)、A子さんは40歳未満なので介護保険料の負担はなし。雇用保険料0.006%
<医療費負担の変化>
・A子さんの医療費は約26.8万円の負担減
(対策前)7万円×12カ月=84万円
(対策後)57,600円×3回+44,400円×9回=57万2,400円
社会保険に加入すると傷病手当金も受給できる
さらに、高額療養費だけでなく、A子さんの病状が進行し、休職することになった場合でも傷病手当金という公的な所得補償も受けられるのです。
その額は、給与の2/3ですから、ざっくり計算して110万円÷12カ月÷30日÷2/3=日額約2,040円。30日休むと約61,200円が受け取れます。
傷病手当金の受給中は、所得税はかかりませんが、前年の所得で計算された住民税や社会保険料は負担しなければなりません。
それに、「病気になっても働くなんて大変では?」と感じる人もいらっしゃるでしょう。しかし、実際には、病気になっても就労を継続したい、そうしなければ生計を立てられないといった方が少なくないのです。
社会保険に加入して、将来の年金が増えるのは分かるが、それよりも、今の負担を増やしたくないというお気持ちも分かりますが、病気になった時、もっと今が大変になる可能性があるということを知っておいていただきたいと思います。
<参考>
・厚生労働省「高額療養費制度の見直し」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000089358.pdf
・厚生労働省「高額療養費の見直しについて」(平成25年9月9日)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000022217.pdf