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執筆者プロフィール
- CFP認定者
- 1級FP技能士
- 1級DCプランナー
- 住宅ローンアドバイザー
- 確定拠出年金教育協会 研究員
- アクティブ・ブレイン・セミナー マスター講師
- 2024.11.28
- ライフプラン
「年収103万円の壁」、実は全部で8つも壁がある!?
最近話題の「年収103万円の壁」、実は全部で8つも壁があるって知っていましたか?
近い将来、制度が改正されていく可能性が高そうですが、現在の制度がどうなっているのか、その概要を知っておくと、改正内容も理解しやすくなると思いますので、ここで整理しておきましょう。
壁①:90~100万円の壁=住民税(均等割)の壁
これは自治体によって収入の基準が異なる場合があるのですが、おおむね年収90万円から100万円を超えてくると、年間5,000円程度の住民税(均等割)の負担が発生します。
壁②:100万円の壁=住民税(所得割)の壁
年収が100万円を超えると、住民税(所得割)の負担が始まります。税率は、課税所得に対して一律10%です。
壁③:103万円の壁=所得税の壁
年収が103万円を超えると、所得税の負担が始まります。所得税の税率は超過累進税率となっていて、課税所得の金額が195万円以下の部分は5%、195万円超330万円以下の部分は10%、330万円超695万円以下の部分は20%・・・となっていて、最高税率は課税所得4,000万円超の部分が45%と、7段階の税率が設定されています。
壁④:103万円の壁=配偶者控除・扶養控除・配偶者手当の壁
年収103万円の壁は、もうひとつあります。それが配偶者控除や扶養控除の壁。例えば、パートで働いているのが妻だとして、妻の収入が103万円を超えると、夫が配偶者控除を受けられなくなります。ただし、通常は配偶者特別控除(金額は同じ)に切り替わるだけなので、夫の税負担は変わりません。
一方、扶養控除の対象となっている子どもがアルバイトをして、年収が103万円を超えると、扶養控除を受けている父親の税負担が重くなります。子どもが年末時点で19~22歳の特定扶養親族だった場合、所得税で63万円、住民税で45万円の控除がなくなるので、最低でも8万円近い税負担増となります。
また、会社によっては、夫の給与に「配偶者手当」のような手当がついている場合があります。その支給要件が「妻の年収が103万円以内」となっている場合が多いようです。仮に、「配偶者手当」が月1万円でも支給されていたとすると、妻の収入が103万円をちょっと超えただけで、年間12万円の手当がなくなってしまいます。
最近、「年収103万円の壁」が大きな話題となっているのは、これらの制度の現状が、年収を103万円以内に抑えようとする「働き控え」につながっているとして、壁を178万円あたりまで引き上げるべきだという意見が出てきたことが背景にあるわけです。
壁⑤:106万円の壁=社会保険の壁
従業員数51人以上の会社で週20時間以上働くなどの要件を満たす人が、年収約106万円(月収8万8000円)以上になると、会社を通じて厚生年金や健康保険に入る必要があります。保険料は労使折半ではありますが、保険料負担分だけ手取り収入が減少します。
壁⑥:130万円の壁=社会保険の壁
「106万円の壁」の要件(従業員数51人以上の会社で週20時間以上働くなど)に当てはまらない人でも、年収が130万円以上になると、自分で国民年金保険料や国民健康保険料を負担しなければならなくなります。その分だけ手取り収入が減少します。
壁⑦:150万円の壁=配偶者特別控除減少の壁
妻がパートで働いているものとして考えた場合、妻の収入が150万円を超えると、夫の税金を計算する際の「配偶者特別控除」(所得税で最高38万円、住民税で最高33万円)が徐々に減り始めます。
壁⑧:201万円の壁=配偶者特別控除消滅の壁
そして、妻の収入が201万円を超えると、夫の税金を計算する際の「配偶者特別控除」がゼロになります。
ちなみに、夫の年収が500万円だった場合で、妻の年収の変化によって夫婦の手取り収入はどのように変化していくのかを計算してみました。
前提条件:夫婦ともに40歳未満。子どもは15歳以下。社会保険料は年収130万円からかかるものとした。国民健康保険料は東京都練馬区の料率で試算。
妻の年収が増えていったとしても、129万円(130万円未満)までは着実に夫婦の手取り収入は増えていきます。しかし、妻の年収が130万円になると、妻の国民年金保険料と国民健康保険料の負担が始まるので、一気に30万円ほど夫婦の手取り収入が減少します。実はこれが、頑張って働いても夫婦の手取りが増えない「暗黒ゾーン」の始まりです。
この暗黒ゾーンは、妻の年収が173万円に上がるまで続きます。夫婦の手取り収入が、妻の年収が129万円だったときの水準を下回る状態が続くのです。つまり、妻が頑張って働いて年収を増やしても、夫婦の手取り収入が増えない残念な状態が続くということです。
この「暗黒ゾーン」がある関係で、基本的には「103万円の壁」は気にせずにどんどん働いた方がいいとは言えるものの、中途半端に稼ぐともったいない状態になるケースもあるので、注意点したほうがいいと言えるわけです。
夫の年収が500万円の場合で言うと、
妻がしっかり稼げるなら、年収173万円以上を目指す。
あんまり稼げないなら、年収129万円以内に抑える。
これが、夫婦の手取り収入を増やすための賢い考え方と言えそうです。
ただし、この金額は、夫の年収によって多少なりとも違ってきます。また、社会保険料や税制が変わることによって、年度ごとに変化する可能性もありますので、ご注意ください。
なお、一定要件を満たす会社で年収106万円以上となり、妻が厚生年金と健康保険に加入する場合は、年収130万円よりも早く手取りが減りますが、厚生年金への加入で将来の年金額が増えるメリットも大きいので、無理に収入を抑えようとしなくてもよいでしょう。
さて、現状の制度はこのようになっているわけですが、今後、どのような見直しが行われていくのか、その動向を見守っていくことにしましょう。