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執筆者プロフィール
- CFP認定者
- 1級FP技能士
- 1級DCプランナー
- 住宅ローンアドバイザー
- 確定拠出年金教育協会 研究員
- アクティブ・ブレイン・セミナー マスター講師
- 2024.07.25
- 投資
貯蓄・投資・ローンを実質金利で考えてみよう!
物価の上昇や下落によってお金の価値は変化します。
なので、預貯金金利や、投資の利回り、ローン金利なども、表示されている表面的な金利(=名目金利)だけで判断するのではなく、物価上昇率も考慮した実質的な金利で判断することも重要でしょう。
例えば、平成バブル期であった1990年当時、1年満期の定期預金でも年6%を提示しているところがありました。1年間で6%も利息が付くなんて、今では考えられませんが、当時は物価上昇率も高く、消費者物価指数(CPI)の総合指数で前年比3.1%の上昇を記録していました。
実質金利をざっくりと求める方法(簡便法)は以下のとおり。
実質金利 = 名目金利 - 物価上昇率
(表面的な金利) (インフレ率)
なので、当時の定期預金の実質金利は、6%-3.1%=2.9%だったことがわかります。物価上昇によって、実質的な金利は表面的な金利水準よりも低かったことが分かります。
ちなみに、当時は住宅ローンの金利も高く、住宅金融公庫(現住宅金融支援機構)の基準金利は、年5.5%でした。しかし、物価上昇率も高かったので、実質的な借入金利は、5.5%-3.1%=2.4%程度だったことが分かります。
その後、失われた30年とも呼ばれた平成から令和への時代は、物価上昇率はほぼゼロ、または若干のマイナス、まさにデフレの状態に陥ります。以下は、1990年から2023年までの消費者物価指数(総合指数)の前年比上昇率の推移です。
1990年 3.1%
1991年 3.3%
1992年 1.6%
1993年 1.3%
1994年 0.7%
1995年 -0.1%
1996年 0.1%
1997年 1.8%
1998年 0.6%
1999年 -0.3%
2000年 -0.7%
2001年 -0.7%
2002年 -0.9%
2003年 -0.3%
2004年 0.0%
2005年 -0.3%
2006年 0.3%
2007年 0.0%
2008年 1.4%
2009年 -1.4%
2010年 -0.7%
2011年 -0.3%
2012年 0.0%
2013年 0.4%
2014年 2.7%
2015年 0.8%
2016年 -0.1%
2017年 0.5%
2018年 1.0%
2019年 0.5%
2020年 0.0%
2021年 -0.2%
2022年 2.5%
2023年 3.2% 出所:総務省統計局
デフレ下では、表面的な金利よりも実質金利は高くなります。
例えば、2009年の物価上昇率-1.4%で計算してみると、当時の1年満期の定期預金の金利は年0.2%程度だったので、実質金利は1.6%(=0.2%-(-1.4%))となります。
また、当時のフラット35の借入金利(返済期間21年以上35年以下)も、最も適用金利が低かった2009年12月の金利が年2.6%だったので、実質金利は4.0%(=2.6%-(-1.4%))だったことがわかります。
やはり、デフレ時代はなるべく借金は避けるべきなのです。実質的な利息負担が重く、借金の価値が膨らんでしまうからです。とはいえ、結果論で言えば、その後十数年の不動産価格の上昇を考えると、当時無理してでもローンを組んで立地条件のいい物件を買った人は、その後の価値の低下は非常に少なかったか、もしくは、価値が上昇しているのではないかと思います。
では、あらためて、現在の実質金利を考えてみましょう。
物価上昇率は、2022年が前年比+2.5%、2023年が前年比+3.2%です。さらに、2024年1月からの毎月のCPI(総合指数)の推移を見ると、前年同月比で2%台後半の状態が続いています。
2024年1月 +2.2%
2024年2月 +2.8%
2024年3月 +2.7%
2024年4月 +2.5%
2024年5月 +2.8%
2024年6月 +2.8%
仮に、今年の物価上昇率が前年比+2.5%だったとすると、預貯金金利が少しは上がったとはいえ、年0.1%に満たない水準だと、実質金利は-2.4%(=0.1%-2.5%)です。物価上昇に負けてしまうのです。
逆に、住宅ローンなどの借入れの実質金利は、非常に低い状態になります。変動金利型の年0.3%前後なら、実質金利は-2.2%前後(=0.3%-2.5%)。フラット35(7月の最も多い金利1.84%)でも、実質金利は-0.66%(=1.84%-2.5%)となります。
今、借入れを希望している人たちにとっては、持続的な物価上昇によるお金の価値の減少というのが、よい追い風になっていると言えるでしょう。昭和の時代のような「借金も財産のうち」と言える状況に変わりつつあるのかもしれません。
ただし、くれぐれも借入れについては、安全安心に返済できるのか、返済計画を冷静に見積もる必要があります。この点は、いつの時代も変わりません。