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医療保険にも「免責期間」が設定される商品が増加!?


まずは、タイトルから若干外れたエピソードをひとつ紹介させてください。
私事で大変恐縮ですが、私の娘が高校三年生で、ちょうど大学受験真っ盛り。今は、先日の共通テストの結果を受けて、国立大学の二次試験の出願先を決定し、2月上旬から始まる併願する私立大学と二次試験の対策のため、文字通り、朝から晩まで、予備校にこもって勉強漬けの毎日を過ごしています。
それが今週日曜日の21時半頃、「帰ろうと思ったら、SUICAのチャージ残高が5円しかない。財布にも現金が9円だけ。帰れない…」と連絡がありました。まあ、キャッシュレスあるあるですね。

JR東日本なら着駅清算で後日払うことができるものの、残高が少なくて改札すら通れない。SUICAのデポジットを払い戻すのもちょっと面倒です。
最初はすぐに、電車で迎えに行こうと思いましたが、今から支度をしていると、どんなに急いでも30分以上はかかります。夜も遅いし、受験生の親としては、1分でも早く帰宅して勉強させてやりたい。夫に相談すると、「近くの交番に行けば、貸してくれるから」というので、娘に交番に行くように伝えたのです。
いわゆる「公衆接遇弁償費」というもので、1,000円を上限に、交番等で、公共交通機関を利用した帰宅までの最低限の交通費等を貸してくれる制度です。
すべての都道府県が導入しているとは限らないようですが、そういえば、私も子どもの頃、親から、財布などを落として帰宅できずに困ったら、交番に行くように言われた記憶があります。

さて、15分ほどして、娘から電話がありました。「貸してもらえなかった」とほぼ半べそ状態。断られた理由を尋ねると、「どうせ返ってこないから」だそうです。
けんもほろろの扱いに、いったんはしおしおと引き下がって交番を出た娘ですが、この寒空の中、親に迎えにきてくれと言うのが申し訳なかったのでしょう。再度、恥を忍んで、交番に行ったそうです。ところが、再び対応してくれた若い女性警察官曰く、「お金を返しにくる人は半分。(娘のように)みんな一生懸命お願いするけど、面倒になって、どうせ返しにこないから貸せない」の一点張りだったとのこと。
私が迎えに行ったときには、「(交番)近くの予備校に通っていて、明日も来るから必ず返しにきますって、お願いしたんだけど、まったく信用してもらえなかった。帰りの電車代160円貸してほしかっただけなのに…」と、寸借詐欺扱いされて悔しいやら悲しいやら。ずっと、泣きながら説明する娘を慰めながら帰途に着きました。

さて、FPとして、このエピソードには、いくつもの学びと気づきがあると考えます。その一つが、今回のコラムのテーマに通じる「モラルリスク」です。
モラルリスクとは、保険業界用語で、保険金や給付金を、保険会社から不正に取得するリスクを言います。
「逆選択」とも呼ばれるもので、例えば、がん保険の場合、がんの疑いや自覚症状があるにも関わらず加入しようとするモラルリスクを回避するために、90日の免責期間が設けられていることは、みなさんもよくご存じでしょう。
つまり、保険契約者間の公平性を担保するために免責期間が設けられているわけです。そして、一般的に、病気やケガなどを保障する医療保険には、免責期間がない商品がほとんどですが(古いタイプの商品には、5日間以上入院で給付金が受け取れるものもある)、今後、免責期間を設けた医療保険が増えてくるかもしれません。

2023年1月18日、日本生命保険では、今年4月から医療保険などに保険金支払いを適用しない免責期間を導入すると発表しました。
その内容は、保障開始日から14日以内に新型コロナウイルス(以下、コロナ)への感染を理由に入院した場合、保障の対象外とする、というものです。
導入されるのは、入院給付金一時金タイプの医療保険「NEW in 1」(ニューインワン)と就業不能保険「収 NEW 1」(シュウニューワン)の2つとなります(2023年4月2日以降の契約分から適用)。

導入の背景には、濃厚接触者に指定された人や発熱などの自覚症状のある人が、リスクが高いにもかかわらず、高額な保険に加入してすぐに保険金を請求するケースが少なからずあったと予想されます。
例えば、「NEW in 1」の保険料は、入院給付金額30万円、先進医療給付あり、月払い、保険料払込期間10年、保険料払込免除特約を付加しない場合、30歳:男性3,244円、女性4,175円です。ご夫婦で加入して約7,500円の保険料を払えば、すぐに60万円が受け取れて、その後、即解約も可。何とコスパの良い金融商品なのでしょう!
しかもコロナの医療費は公費ですから、すべてタダです(2023年1月現在)。

コロナに対する給付金に関しては、2020年春から、自宅や自治体が用意したホテルで療養する「みなし入院」の感染者にも入院給付金を支払い措置が取られていました。
ただ流行の長期化やコロナ感染者の増加にともなって、これが生保各社の支払い業務の負担になっており、2022年9月から入院給付金の対象が大幅に見直されたことを受け、一時金タイプの入院給付金の額を見直す動きが出ています。
日本生命でも、「NEW in 1」の入院給付金の上限額が40万円から30万円に引き下げられました。
さらに、同社の医療保険等への免責期間導入の発表は、人々のモラルリスクが問われているかのようです。

もちろん、ほとんどの契約者は保険会社に正しく告知を行っているはずです。しかし、一部の契約者の行為が、契約者間の公平性を損ねかねず、保険会社のモラルリスク防止の強化につながるのです。ひいては、将来の保険料アップや本当に経済的に苦しくて保険に加入している人の助けにならないのでは困ります。
そこで、冒頭でご紹介した娘のエピソードを再考してみると、「公衆接遇弁償費」(あるいはお巡りさんのポケットマネーかもしれない)を借りた人々が、ちゃんと返しにいっていたら、娘も借りられたのでしょう。
保険も、自分さえ良ければ、ちょっとだけなら問題ないだろう、では成り立ちません。「一人は万人のために、万人は一人のために」という考えに立ち、お互いに少しずつお金を出し合って助け合うしくみであることを十分にご理解いただきたいと思います。

<参考>
日本生命「一部商品の保障内容の改定について」(2023年1月18日)
https://www.nissay.co.jp/news/2022/pdf/20230118.pdf

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