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ドル建て保険とアメリカの国債を比較してみた


先日、とある研修会で知り合った人から、保険の見直しをしたいと連絡をもらいました。
1年ほど前にFPから勧められてドル建ての保険に加入したものの、たまたま見た報道で、外貨建て保険に関するトラブルや、国民生活センターへの相談が増えている現状を知り、自分が加入しているものがどういうものなのか、不安になったので見てほしいとのことでした。

その知り合いは55歳男性、会社員。妻と2人の娘の4人家族ですが、2人の娘はすでに社会人で、いまは妻と2人暮らし。マイホームのローンは最近完済したとのこと。残り10年になった会社員生活は、リタイア後の準備を進めながら、休日の趣味なども増やしていきたいそうです。

彼が契約している外貨建て保険の証券を見てみると、主な契約内容は以下のとおりでした。
<ドル建て終身保険>
保険金額 : 30,000ドル
保険期間 : 終身
保険料払込期間 : 10年
保険料(月払い) : 178.20ドル

毎月178.20ドル(1ドル=140円とすると、2.5万円弱)を10年間支払って、3万ドルの一生涯の保障が受けられる保険だということです。

まず、どのような理由で加入したのかを聞いてみました。
すると、死亡保障の必要性はそれほど感じていなかったものの、万一の際の妻への保障が多少はあったほうが安心だと思ったのと、今後の円安の可能性に備えたほうがいいとFPに言われたからだったようです。

そもそも、2人の子どもたちは巣立っていて、住宅ローンも完済している状態の55歳男性に死亡保障は必要なのでしょうか。

もしものことがあった場合に妻にある程度の財産を残したいという気持ちは、わからないでもありません。しかし、勤務先には企業年金があって企業型DCにも加入しているということだったので、もしもの場合は死亡退職金等が出ます。さらに、多少なりとも貯蓄があるなら、死亡保障はほとんど必要ないと思われます。

ドル建て終身保険の「保険」としての必要性がないのであれば、あとはドルで運用する部分にメリットがあれば、商品としての価値があると言えるでしょう。しかし、ドルベースで運用商品としての価値を計算してみると、それほど魅力的なもののようには見えませんでした。

毎月178.20ドルを10年間積み立て、55歳男性の余命年数を29年と仮定して、29年後に3万ドルになるとすると、利回りは年1.42%の複利運用に相当することがわかります。

年1.42%というと、少し高めに感じるかもしれませんが、2022年8月末現在、アメリカの国債の20年満期や30年満期の利回りは、総じて年3%を超えています。どうしてもドルで運用したいのであれば、アメリカの国債を買ったほうが、利回りも高く、安全性も高いのではないでしょうか。

契約した保険会社がつぶれる可能性とアメリカの国が破綻する可能性、どちらが大きいかは、聞くまでもないでしょう。

実は、2022年3月18日に、日本弁護士連合会が、金融庁に対して「外貨建生命保険の販売についての意見書」というものを提出しています。
その意見書の趣旨の部分には、次のようなことが書かれていました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
金融庁は、外貨建生命保険の販売者が顧客に対して、外国債券、投資信託及び掛け捨ての死亡保険等を個別に購入することによって当該保険と同等の経済的効果を得られること及び個別に購入した場合とのコストの違いについて説明しなければならない旨を、保険会社向けの総合的な監督指針に明記すべきである。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

どういうことかというと、「わざわざドル建て終身保険のような外貨建生命保険を利用しなくても、外国債券や投資信託、掛け捨ての死亡保険などを組み合わせて利用すれば、同等の経済効果が得られること、そして、そのコスト負担の違いについても、きちんと説明しなければならない」と、保険会社に対する監督指針に明記すべきだと言っているのです。

つまり、もっと簡単に言えば、外貨建て保険は相対的にコスト負担が重く、ほかの金融商品を組み合わせればコスト負担を軽くしながら同等の経済効果が得られるということです。

もちろん、外貨建ての保険のすべてがダメだと言いたいわけではありません。重要なのは、保障の必要性の有無と、他の商品と比較したうえでの割高割安を冷静に検討することでしょう。賢く備えて賢く運用するためにも、金融商品や金融サービスの本質をつかむことが大切だと思われます。

※なお、今回の事例のドル建て終身保険の利回りは、あくまでも一例です。商品の違いや契約時期の違いによって異なる可能性がありますのでご注意ください。

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