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FPのためのリスク・マネジメント論(その4):リスクの保有と移転


前回は、リスク・マネジメント論におけるリスク対応手段のうち「リスク・コントロール」について解説しました。今回は、もう一つのリスク対応手段である「リスク・ファイナンシング(またはリスク・ファイナンス)」について解説します。

  1. リスク・ファイナンシングとは
    例えば、鉄道会社は踏切事故を回避するために様々な措置を講じていますが、いくらリスク・コントロールを万全に行ったとしても、踏切事故の発生確率をゼロに抑えるのは現実的には不可能です。また、踏切事故のリスクを回避するために全ての電車を運行停止してしまうと、踏切事故はゼロになるかもしれませんが、それでは鉄道会社の存続が危ぶまれてしまいます。
    そこで、リスクが現実のものとなった事態に備えて、損害発生に伴い必要となる資金を調達・確保できるようあらかじめ準備するのがリスク・ファイナンシング(risk financing)です。リスク・ファイナンシングの手法は、「保有」と「移転」に大きく分かれます。
  2. 保有
    リスクの保有(retention)とは、リスクを認識した上で、当該リスクの発生により生じる損失(金銭的支出)を自ら準備することをいいます。保有は、内部資金によるものと外部資金によるものに大きく分かれます。
    内部資金による保有とは、例えば工場の機械が故障した場合、経常的な支出として修理代を支払う「費用処理」や、修理代をあらかじめ積み立てておく「引当金・準備金」などの手法が代表的です。また、企業規模が大きくなると、企業内部で資金をプールして保険のしくみを代替する「自家保険」や、保険子会社を設立して親会社のリスクを引き受けさせる「キャプティブ」などの手法も用いられます。
    外部資金による保有の代表例としては、金融機関からの融資あるいは社債発行等により必要な資金を調達する「借入れ」、あらかじめ定めた条件で金融機関から融資を受ける確約を得る「コミットメント・ライン(融資予約枠契約)」、リスク発生時にあらかじめ定めた条件で債券を発行し特別目的会社(SPV)に引き受けさせる「コンティンジェント・デッド(非常時債券発行)」などがあります。
  3. 移転
    リスク・ファイナンシングにおけるリスクの転嫁(transfer)とは、何らかのコストを負担することにより、リスク(および当該リスクの発生により生じる損失)を保険会社あるいは金融・資本市場などの第三者に移すことをいいます。移転は、保険と保険以外の手段(代替的リスク移転)に大きく分かれます。
    保険(insurance)は、最も代表的なリスク移転の手法です。企業および個人は、保険会社と保険契約を締結して保険料を支払うことで、保険事故が生じた際は保険会社から保険金を受け取る権利を得ます。これは、保険料というコストを負担して、保険事故の発生により生じるリスクを保険会社に移転したと言い換えられます。
    一方で、リスクには、保険によって移転可能なリスクと移転不可能なリスクがあります。現代の企業活動では、損失をもたらす「純粋リスク」よりも、損失・利得の双方をもたらす可能性がある「投機的リスク」への対応が重視されていますが、保険ではこの投機的リスクには対応できません。そこで、保険に替わる手法として、金融派生商品(デリバティブ)を利用した一連の手法が「代替的リスク移転」(ART: alternative risk transfer)と呼ばれるものです。ARTの代表例には、デリバティブを活用した「保険デリバティブ」、証券化のしくみを活用した「保険リンク証券」、大規模災害リスクを証券化した債券である「CATボンド」などがありますが、どれも企業向けのものが大半であり、個人が利用可能なリスク移転手段は保険(または共済)に限られるのが実情です。

以上、全4回にわたりリスク・マネジメント論の基礎的な知識を解説しました。リスク・マネジメントは、ファイナンシャル・プランナー(FP)試験では「リスク管理」または「リスクと保険」という課目で出題されますが、現実のリスク・マネジメントには唯一絶対の正解など存在しないため、試験では生命保険・損害保険の知識ばかりが問われます。しかし、リスク・マネジメントの基礎理論を知ると、保険・共済の重要性だけでなくその限界を知ることができ、FPだけでなく保険・共済の実務に携わる者にとっても新たな視点を養う上で有益だと考えます。

<FPのためのリスク・マネジメント論(全4回)>
その1:リスクの定義・分類・構造
https://fpi-j.com/column/column2117/

その2:プロセス
https://fpi-j.com/column/column2292/

その3:リスク・コントロール
https://fpi-j.com/column/column2382/

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